日本の中小企業は本当に多いのか?
中小企業の付加価値経営 #014
日本は中小企業が多いため労働生産性が低いと考える人が多いようです。OECDのデータベースを基に、日本の中小企業数や、中小企業で働く労働者の割合などについて確認してみます。
1. 日本の中小企業数
「日本は他国よりも中小企業が多いので労働生産性が低い」という認識を持つ人が多いと言われます。
これは果たして本当でしょうか?
今回はこのような通説に対して、今回はOECDや国内データを参照して検証してみたいと思います。
前回は日本の経済センサスを基に、日本の労働者数や企業の種類、企業数について、規模別の数値をご紹介しました。
2021年のデータでは、日本には約368万社の企業等が存在し、5,700万人ほどの労働者(従業者)が働いている事になります。
今回は、OECDのデータベースから、企業規模別の企業数や労働者数について国際比較してみましょう。
参照するのは、OECD Data Explorerのうち、Structural business statistics by size class and economical activityです。
このデータベースには、企業規模ごとに各国の労働者数や、企業数、付加価値額などの統計データが集計されています。
OECDでは、労働者数の規模に応じて下記のような区分としているようです。
・零細企業(Micro enterprises)
労働者数 1~9人
・小規模企業(Small enterprises)
労働者数 10~49人
・中規模企業(Medium enterprises)
労働者数 50~249人
・大企業(Large enterprises)
労働者数 250人以上
労働者(Employment)と表記する場合は、日本の統計でいうところの就業者数、有業者数、従業者数を指します。
企業に雇われている雇用者(Employees)に、個人事業主(含む無給の家族従業員, Self-employed)を加えたものが労働者となります。
また、OECDのデータベースに掲載されている日本のデータは、雇用者数(Employees)と労働者数(Employment)の数値が逆転してしまっています。
既に総務省統計局には報告し、逆転している事を確認済みです(2024年7月26日)。
ご自身で元データを当たる場合には、この点に留意していただくとスムーズと思います。本稿ではこの取り違えを修正し、労働者数で統一していますのでご安心ください。
OECDの統計データで、最も各国のデータが揃っているカテゴリは、Business economy except financial and insurance activitiesです。
これは、会社企業のうち、金融・保険業以外を対象としたものと考えられます。
念のため、前回確認した経済センサスのデータと比較して、内訳に大きな差が無いかを確認してみましょう。
経済センサスでは、企業規模の区分について、常用雇用者数で見た場合に、0~9人、10~49人、50~299人、300人以上で分かれています。
区分の仕方が常用雇用者という部分と、中規模企業相当と大企業相当の分かれ目が250人ではなく300人である違いがあります。
これらを踏まえて、便宜的に経済センサスの企業規模を下記の通り当てはめて比較したのが上図です。
経済センサスの区分(筆者にて設定)
零細企業: 常用雇用者0~9人
小規模企業: 常用雇用者10~49人
中規模企業: 常用雇用者50~299人
大企業:常用雇用者300人以上
区分の基準や範囲がやや異なりますが、上図を見る限りでは、今回参照するOECDの範囲と、経済センサス全体の内訳の比率にそれほど大きな相違はないようです。
2. 日本の中小企業は多いのか?
各国の労働者あたりの企業数を比較する事で、日本の企業数が国際的に見て多いのか確認してみましょう。
まずは企業規模別の企業数を、労働者数の合計値で割った指標を計算してみます。
労働者あたり企業数 = 企業数 ÷ 労働者数
このような指標とすることで、各国の労働者数の規模からして、企業の数そのものが多いのかどうかを計算できますね。
上図は主に先進国で構成されるOECD各国についての、労働者あたり企業数です。
各規模の企業数を、総労働者数で割った数値となります。
ほとんどの国で1~9人の零細企業が大半を占め、全体の9割以上を占めます。
1~49人の小規模零細企業まで広げると99%以上、250人未満の中小零細企業だと99.6~99.9%程度になります。
企業の99.7%は中小企業と言われますが、それは日本だけではなく各国で同じような傾向という事になりますね。
一方で、企業数自体に着目してみると、日本は労働者1万人あたりで709社の企業があり、そのうち606社が労働者10人未満の零細企業という事になります。
これは、OECDの中でもドイツよりもさらに低く、スイスに次ぐ水準という事になります。
仮に全企業等数の368万社をあてはめてみても、せいぜい800社くらいでドイツを上回る程度です。
個人事業主や小規模零細企業が多い事で知られるイタリアは、2,414社と先進国の中でも比較的企業が多い事になりそうです。
国内の報道ばかり見ていると、日本ばかりが中小企業や零細企業が多いように感じてしまうかもしれませんが、むしろ先進国でも企業数がかなり少ない方になります。
人口あたりの企業数の国際比較については、下記の当社ブログも多くの方にお読みいただいています。
3. 中小企業で働く労働者は多いのか?
続いて、労働者の分布についても確認してみましょう。
ここでは企業規模別の労働者数のシェアを比較してみます。
上図は、各企業規模で働く労働者数について、全体の労働者数に対する割合を計算したものです。
1~9人規模の零細企業の割合が高い国順に並べています。
日本は零細企業で働く労働者のシェアが20.3%で、OECD30か国中25番目、ドイツよりも高いですが、フランスよりも低い水準です。
ギリシャが最も高く45.9%で、韓国(43.9%)、イタリア(41.6%)と続きます。
韓国とイタリアは、為替レート換算で見た労働生産性が日本と同じくらいの水準です。
イタリアは購買力平価換算だと日本を上回ります。
10~49人規模の小規模企業まで含めた場合で見ても、250人未満の中小零細企業で見た場合でも、日本は先進国の中ではかなり低い方になる事が確認できるのではないでしょうか。
産業別の企業規模別労働者数シェアについては、以下の記事でもご紹介していますので是非ご一読ください。
4. 労働生産性が低いのは中小企業が多いから?
改めて冒頭の問いかけに戻ると、統計データを見る限りでは、日本はむしろ国際的に見れば中小企業の数は少なく、そこで働く労働者のシェアが低い事がわかります。
以前ご紹介した労働生産性(労働時間あたりGDP)の順位と見比べていただければ、確かに韓国や東欧諸国は中小企業労働者の割合が多く、労働生産性も相対的に低いという関係が確認できます。
一方で零細企業の多いイタリアは日本よりも労働生産性が高く、フランスやドイツも日本と比べて相当に高い水準に達しています。
このデータを見る限りでは、そもそも日本は中小企業が多いわけでもなく、中小企業が多いからと言って必ずしも労働生産性が低いとも限らない事がわかるのではないでしょうか。
むしろ、そういった通説に流され、安易に中小零細企業を淘汰すべきと考えてしまう方が一面的な見方になるのではないでしょうか。
いわゆる規模の経済と言われるように、大規模化できるような産業や事業であれば大規模化した方が生産性が高まるのは当然です。
経済活動は、この規模の経済を追うことが基本姿勢とも言えます。
一方で、規模の経済が先鋭化するほど、その隙間のニッチ領域も拡大していきますね。
そのような領域では、むしろ大規模化すると非効率な産業や仕事も無数にあります。
目を向けるべきは大規模化できない小規模だからこそ成立する領域において、中小零細企業が十分な付加価値を稼げるようになる事ではないでしょうか。
しっかりと日本の経済や国民の豊かさを考えるのであれば、国内経済の多数派である中小企業がそれぞれの適正な企業規模において、付加価値とその分配を向上させていく事も重要な方向性であるように思います。
もちろん、分野や企業によってはM&Aによる合理化なども選択肢かもしれませんが、それだけが解決法ではないという事を、今回のデータは物語っていると思います
今回のデータについては前回の中小企業に関する記事についても目を通していただけると、更に解像度が上がると思いますのでご一読いただければ幸いです。
統計的な根拠などは是非当社公式ブログもご確認ください。
より詳細な統計データや、国際比較など細かいテーマごとに共有しております。
小川製作所ブログ: 日本の経済統計と転換点
コメント
注目のコメント
データを丁寧に見ておられ、そこから出てくる考察もたいへん参考になりました。企業規模・生産性・経済成長の関係は丁寧に見ていく必要があると感じました。
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「日本は中小企業が多すぎる」という印象を持つ方が多いようですが、統計データで確認してみると、日本の中小企業やそこで働く労働者は、先進国の中ではむしろ少ない方になるようです。
今回は、企業規模別の「労働者数あたり企業数」と、「労働者数シェア」を計算し国際比較してみました。
中小企業の付加価値経営(14)