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「半自動走行カー」メルセデスS550に見る自動車の未来

「自動運転」は人々を幸せにするのか

2015/7/9
自動運転技術と電気自動車の登場で大転換期にある自動車業界。高級車のリーディングカンパニー、メルセデス・ベンツの幹部は、「自動車と輸送システムは今後20年間に、過去75年間を超える変化を遂げる」と断言するなど、大手自動車メーカー幹部は共通して「変革の時」を感じている。ニューヨーク・タイムズの名物コラムニストが、自動車業界に訪れる激動の未来を描く(NP特集「モータリゼーション2.0」特別版)。
前編:今後20年、クルマの世界に”月面着陸”に等しいことが起きる

道路の面積が縮小する日

アメリカでは毎年、3万人以上が自動車に乗っているときの事故で命を落としている。また、自動車事故の社会的コストは少なくとも年間3000億ドルに達するという(米自動車協会の研究による)。

大半の事故は人的ミスによって起きているから、人工知能の導入は理論上は事故の減少や防止の効果を持つはずだ。

アメリカ国内で何万という単位で事故死を減らすことも夢ではないと、専門家や自動車メーカーは言う。

2008年にスウェーデンのボルボは、2020年までに「新型ボルボに乗車中に重傷を負ったり命を落とす人をゼロに」という目標を立てた。これも運転自動化の効果に多くを期待してのものだった。

同様に、自動車利用の効率アップも夢ではない。大半の車は実際に走行している時間より使われていない時間のほうが長いし、使われる際も1人しか乗せていないことが少なくない。リソース配分という点では非常に効率が悪いのが現状なのだ。

スマートフォンを使った自動車の相乗りサービスの拡大や車の個人所有の減少だけが自動車利用の効率化をもたらすわけではない。自動化により自動車の運転そのものが変わることも大きな要因だ。

衝突事故を起こさなくなれば車体の軽量化が可能になるし、短い車間距離を保って走れるようになれば渋滞も減り、ひいては都市部では、道路の面積を減らすことも可能になるだろう。

ヘックとロジャースによれば、インテリジェント道路が一般的になれば事故で失われていた人命が(数値的には不明だが)救われ、多額のカネを節約できるという。

夢は夢として、完全自動運転への道は平坦でもなければ時間もかかるかもしれない。グーグルは先頃、自動運転車の公道における実証試験を開始したと発表したが、一般の人々が完全な自動運転車に乗れるようになるまでに少なくとも10年はかかるというのが多くの専門家の見方だ。

技術的な壁もさることながら、さらに大きいのはコストの問題だ。

グーグルの自動運転車のような試作車であれば、たいていは「ライダー」と呼ばれる高機能レーザーセンサー(ルーフ上の風車のように回る機械のこと)が搭載されていて、周囲のあらゆる方向の障害物を検知してくれる。

グーグルによれば、試作車で使っているライダーのユニットの価格は1つ8万5000ドル。いくら今後の値下がりが期待できるとしても、今のような一般市販車には高くて搭載不可能だ。

今後5年ほどの間に自動走行車のテストを開始する計画を立てている自動車メーカーは多い。だが、一般向けに発売する時期を明言している会社はひとつもない。

事実上の「自動運転」はすでに実現

だが、たとえ完全な自動運転がずっと先の話だったとしても、半自動運転であればすでに実用化されている。それも年々、機能は向上し価格は下がり、多くの人が利用できるようになっている。

高級車の半自動運転で使われているのは一般的なセンサーだ。ぱっと見には存在に気づかないだろうが、たとえばレーダーであれば、たいていはフロントグリルの場所かフロントガラスの上部に取り付けられている。

また、近くにあるものや歩行者の存在を検知するため、カメラや超音波システムが車体のあちこちに取り付けられている。

こうしたセンサーのおかげで、車は人間のドライバーに負けないくらいしっかり周囲を「見る」ことができる。それどころか、2台前の車の急減速といった、人間のドライバーが見落としがちなものもすべて把握している。

一部の車種では、車とセンターでやりとりするテレメトリーデータ(たとえばカーブの角度を示す地図情報や渋滞情報)の活用が始まっている。メーカーによれば、既存の半自動運転車のシステムにこうしたデータを組み込むのはそう難しくないだろうという。

こうしたデータにより、特定の道路状況においては車を運転することは自動運転を体験することにほぼ等しいという状況が生まれている。

今年、電気自動車のテスラモーターズは、セダンの「モデルS」にソフトウェア・アップデートというかたちで一種の自動運転機能を導入する予定だ。この機能「オートパイロット」をハイウェイ上で使うと、車は緩やかなカーブにとどまらず、もっと急な角を曲がることもできるという。

「基本的にはドライバーが何もしなくても、サンフランシスコからシアトルまで行くことが可能だ」と、テスラのイーロン・マスクCEOは3月、記者たちを前に述べた。

一部の半自動運転機能が安全性を向上させる可能性を示唆するデータもある。

自動車保険の事故統計を研究しているハイウェイ事故データ研究所(HLDI)によれば、ボルボの前方衝突回避システム(すぐ前方に障害物を検知すると、減速や停車を行う)は人身事故の保険支払い請求を少なくとも18%、減らす効果を上げているという。

レーダーもカメラも新しい技術ではないし、大量生産されているから搭載しても大したコストアップにはならない。自動車メーカーでは半自動運転システムを3000ドル前後のオプションとして用意しているところが多いが、そのうちにもっと幅広い車種で標準装備されるだろうと考えているメーカーもある。

もし自動運転機能による安全性や効率の向上が今後も証明されていけば、搭載が政府によって義務化される日が来るかもしれない。

ボルボで安全技術の開発責任者であるエリック・コーリンは、実用化が始まった半自動運転機能について「カネのかかる技術は基本的に含まれていない」と語る。

未知の問題と格差の拡大

車の進化をすべての人が平等に享受できるとは限らない。たとえば、「Uber(ウーバー)」のような配車サービスの利用料金は規模の拡大によって大きく下がってきたものの、公共交通機関ほど安くなったわけではない。

リープの豪華通勤バスや子どもの送り迎えを請け負う配車サービスのシュドルといった新しいタイプの輸送サービスも、高い料金でスタートしてはいるが、規模が大きくなれば下がる可能性はある。だがそれがいつになるかはまるでわからない。

車の未来を前向きに捉えている論者も、こうした敷居の高さは認めている。「(車の進化の)すべてがみんなを幸せにするとは限らない」とスタンフォード大学のヘックは言う。

さらに大きい問題としては、文化や法制度、それに私たちの脳が、車の進化にどう反応するかが挙げられる。

たとえば技術の進歩によって通勤が楽になると、職場から離れた場所に住む人が増えるのではないかとの懸念がある。そうなればスプロール現象が進んで車への需要が増え、技術革新の成果がすべて相殺されてしまいかねない。

また、もうひとつの懸念が、安全に関する「相殺仮説」と呼ばれる有名なパラドックスだ。これは車がさらに安全になると、人はさらに危険な行動をするようになり、せっかくの安全性向上が相殺されてしまうのではないかというものだ。

私自身、S550を運転していてこの問題に気づいた。車が自分でハンドル操作をしてくれていて、おまけに不測の事態にも対応してくれると思うと、ハイウエーを時速120kmで走っているというのに、つい安心してカーステレオやカーナビ、携帯電話などをいじってしまうのだ。

「こうした技術は、従来型の衝突事故を大きく減らすだろう。だが同時に、これまでになかったタイプの衝突事故をまねくような、別の問題行動を引き起こす可能性がある」と、サウスカロライナ大学のスミス教授は言う。

自動車メーカーは、時間をかけて(半)自動運転システムのさじ加減を調整し、車に何ができて何ができないかをドライバーにわかりやすく示すとともに、ドライバーの危険な行動を防ぐことが求められるとスミスは言う。

「解決法はつまり、人間は不完全な存在であることを受け入れなければならないということだ」とスミスは言う。(文中敬称略)

(執筆:Farhad Manjooコラムニスト、写真:Handout via The New York Times、翻訳:村井裕美)

(c) 2015 New York Times News Service

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