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ロボット同士の真剣バトル

残酷、野蛮、容赦なし。ロボット版グラディエーターに全米熱狂

2015/7/6

『バトルボット』が大人気

「ロボットと人は共存する」「ロボットは人に役立つためにつくられる」

新しいロボット時代を迎えて、こんな言葉がロボット開発者の合言葉になり、一般の人々もそんな希望を抱いているのだが、これと真っ向から逆行するようなロボットが登場している。『バトルボット』というテレビ番組の話だ。

この番組は、6月末からABC局で日曜日夜8時というプレミア・タイムに放映されている。2台のロボットが力の限りを尽くして、相手を崩壊させようとするバトルである。

残酷、野蛮、容赦なし……。ここで繰り広げられるのは、ロボット版グラディエーターのような闘いである。そして、これはロボットの「ポリティカリー・コレクトネス(政治的正しさ)」から見れば大変に問題なのだが、なぜか観る者に一種の清涼感を与えるのも確かである。何よりも、ロボットのつくりが実に高度だ。

実は『バトルボット』は、十数年の冬眠を経てよみがえった番組である。同名の番組は、2000年から2002年まで、コメディー・セントラルというケーブル局で毎週放映されていた。ところが、同局がMTVに買収されて以降、音楽に焦点を絞るという理由で中止になったが、昨今のロボット流行を反映して、再びよみがえったというわけだ。

火を噴く、破壊的なロボット

今シーズンは、約30チームが参加する。これらは選抜を経て、全米各地や海外から集ったチームだ。皆、なんらかのかたちでロボットに関わってきた人々であり、学生もいれば、ロボット愛好家のサークルもあり、学校の先生と生徒、父親と娘というチームもある。

ロボット同士の戦いに挑む人々

ロボット同士の戦いに挑む人々(http://battlebots.com/より)

そうしたチームが勝ち抜いていって、最後に勝者を決定するという流れである。チームにはロボット製作のために8000ドルが支給される。これに加えてスポンサーを探してきて、部品やキャッシュのサポートをもらっているところもあるようだ。

ロボットの重量は250ポンド(113キロ)と定められているが、それ以外はほぼ自由にロボットを設計していい。

復活してからすでに番組が数回放映されている。これを観ると、よくこれだけ技のある人々がいるなあと感心することしきりだ。

どんなかたちのロボットを相手にするかはわからないので、ともかくどのチームも全能的に破壊型のロボットをデザインしている。

刃物でできたプロペラが回転して、相手を切り刻もうというデザインや、いきなりチェーンソーが出てきて、正面から突進していくもの、相手をひっくり返すために下部から平たいアームが出てくる趣向のものなど。中には、相手に網をかけてしまおうというロボットまでいた。そして、火を噴くロボットもいる。

これらロボットは、もちろん自律的に動いているわけではなく、2台のリモートコントロールで操作されている。従って、ロボット技術という点から捉えれば、ただのおもちゃロボット。

しかしその代わり、動きの機敏さやスピードは目を見張るほどで、スリル満点だ。

また、驚くのは、その機械デザインである。「こちらがダメなら、あちらで」という具合に多様な武器がまるでスイス・アーミーナイフのように出てくる。それほど大きくはないロボットなのに、中にいろいろなツールがしまい込まれている。必要に応じてあれこれと瞬時に交替して登場し、相手に攻撃を仕掛けるのだ。

http://battlebots.com/から

刃物でできたプロペラが回転し、火を噴くロボット(http://battlebots.com/より)

「いいロボット」と「悪いロボット」

必然的に、2台のロボットのバトルは「血まみれ」になる。血こそ出ないが、表面はデコボコになり、いくつかのツールは壊れて落脱する。

そのうえ、ガラスで囲われたリングの内側には、時折振り下ろされる巨大なハンマーや、ロボットを切り刻むグラインダーが設置されていて、そこに押しやられると一巻の終わりになる。相手のロボットだけではなく、リングにも危険が潜んでいるのだ。

それにしても、ロボット同士のこんなバトルを観ていると、一種の罪悪感を感じてしまう。相手を破滅させようという程度の低い闘いのために、頭を絞ってロボットを設計し、それを観て楽しんでいることに対する罪悪感だ。

だが、ただただロボットの技とデザインには感銘を受けることも確かだ。あらゆる手を尽くして、攻撃と防御の方法を考えた軌跡が感じられるからだ。ひょっとすると、闘いという設定だからこそ、これほどに知恵が湧くのだろうか。

そして、あらゆる武器を用いて惜しみなく力を出しているロボットのさまには、清々しいものさえ感じる。

シリコンバレーのロボット関係者は、「いいロボット(Good Robots)」をつくろうといつも言う。ここに出てくるロボットは「悪いロボット」。

だが、そんな「非常に高度な」悪いロボットがつくれるこうした人々の技術力が、いいロボットのためにいずれ発揮されるのだと期待したい。

*本連載は毎週月曜に掲載予定です。