みなさんの常識は世界の非常識

みなさんの常識は、世界の非常識Vol.18

「女性が輝く社会作り」政策は、政府のヒマつぶしなんですか?

2015/7/5

政府は「全ての女性が輝く社会づくり本部」の会議を開き、今後1年間に実施すべき女性活躍政策の重点指針2015を決定しました。妊娠出産にからむ女性への嫌がらせ、マタニティハラスメント防止のための法整備に取り組むことが柱となっています。

また、内閣官房は「女性が暮らしやすくなる空間へと転換する象徴」としてトイレ、特に公共トイレの改善を掲げたり、輝く女性応援会議の公式ブログで「毎日キャラ弁を作るお母さん」を紹介したりしています。

しかし、これについてネットを中心に、「は?輝く女性対策でトイレってどういうこと?」といった声や、「弁当作りが女性の仕事と決めつけているのではないか」など、批判的な意見が相次ぎました。

少子化が止まらず、マタニティハラスメントも相次いでいます。宮台さん、いったいこのような政府の「女性が輝く社会づくり」は、宮台さんから見て常識的なものでしょうか?それとも非常識?

何でそれが「女性向けの政策」になるのか説明しろ!

爆笑しました。内閣官房は随分ヒマじゃないか! トイレが快適になれば女性が輝く? はっ? なんで「女性が」なの? 誰もが使うトイレだろ? 快適になれば男性も輝くぜ?子どもも輝くぜ? 馬鹿言ってんじゃないよ、内閣官房! 幾ら何でもヒマすぎるだろ。

キャラ弁、ミッフィーやアンパンマンなどの顔をお弁当で再現するキャラクター弁当のことですが、だからなぜ「女性が」なの? キャラ弁作るお父さんだったら一層素晴らしいだろうが。なんでそれが女性政策になってるんだよ、内閣官房!

もちろん母親がキャラ弁で愛情を表すこともあるでしょうよ。しかし父親がキャラ弁で愛情を表すことだって出来るでしょう。だったら何で弁当を女が作らなきゃいけないんだ、コラ…といった問題に切り込めよ、内閣官房! 後で言うけど、そこにポイントがあるんだろうが。

良さげに見えて、姑息なマタニティ・ハラスメント

「待機児童を減らす」などは既に政策としてメニューに組み込まれているので、と内閣官房が姑息な言い訳をしている。だとしても、出て来るアイディアがこのショボサである言い訳にはならない。今、働く女性にとっての最大の問題が何かが、分かってない。じゃ、言おうか。

第一は、総合職で働く女性たちの勤務が過酷すぎる現実。簡単にいえば労働時間が長すぎる。1日あたり労働時間は、日本が男性375分、女性178分。フランスは男性173分、女性116分。男性で倍、女性でも1.5倍も長い。ドイツはフランスより長いけどそれでも日本よりずっと短い。

※注 OECDによる。
Balancing paid work, unpaid work and leisure

第二に、その総合職に就いている女性が妊娠や育児などをするということになると、その人たちを救うためにという名目で、「一時的軽減措置」というメニューが最近の企業で提案されている。企業名は言いませんが、実際にはこれもおためごかし。想像すりゃすぐ分かること。

例えば、一度、一般職に配置転換されて、子育てが一段落したら、また総合職に戻れる仕組み。あるいは、名前は総合職なんだけど「特定総合職」、つまり、転勤がないとか、労働時間も一定枠内、という具合に条件の限定された総合職に就いて、やがて元に戻る仕組み。

ところが、これらは利用する女性総合職の割合が少ない。理由は簡単です。出世街道から横道に逸れる、つまり、昇進競争に乗り遅れるからなんです。せっかく総合職で頑張ってきたのに、昇進が遅くなって後輩たちに抜かれると思えば、利用したくないのも分かる。

こういう風になるっていうことは、諸外国の例から既に分かっていることです。であれは、やるべきことは、実に簡単。今までどおり総合職を続けながらも、自由に子育てが出来るように、「総合職そのものの労働条件を改善する」。一番なのは労働時間を短くすることです。

繰り返すと、総合職の女性の妊娠や子育てに関する支援をしたい場合、総合職のままで支援しなければ、公正な制度として意味がありません。ところが、女性のためと称しつつ、総合職の女性に、オプション的に「一次的軽減措置」と称して、出世街道から逸らせる。愚昧です。

一見良いように見え、そう書いている馬鹿マスコミもあるが、こうして、マタニティハラスメントに数えられる「妊娠を理由に女性を降格させる」のと同じ機能を、女性が自分で選んだという口実で調達できるわけ。少し考えれば分かる。これを問題にしろよ、内閣官房!

「女は男に近づけ」と「男は女に近づけ」を同時に言え

二つ目としていいたいのは、さきほどのキャラ弁。日本では相変わらず、女性に対して「仕事をしてもいいよ、だけど家事もね」というのがすごく多いんですよ。ちなみに日本の男の家事への参加時間が非常に短いことは国際的な比較データとしてはっきり分かっています。
 
※注
日本男性の育休取得率は1.89%、スウェーデン78%、ノルウェー89%(2012年)
日本男性の家事参加は1時間7分、スウェーデン3時間21分、ノルウェー3時間12分(2014年)

日本の男の家事参加は、せいぜいお風呂掃除とかゴミ出し。そんなことは、家事参加とは言えないよ。会社に行く途中にゴミを出せばいいだけだろ。そういうことじゃなく、洗濯をし、料理を作り、子育てに平等に関わる。これが非常に重要です。もちろん僕はやってます。

でも、そのためには日本の労働法制や労働慣行が変わらなければダメ。男性の育児休暇の取得率が今の20倍以上になり、それがなおかつ不利益にならない制度が必要です。何らかの不利益を被った場合に、その会社にペナルティが課せられる制度がなきゃ、ダメなんですよね。

その意味で、女性の問題というのは男性の問題でもあるんです、当然だけど。女性の妊娠・育児に関わる負担軽減の旗をふるなら、男性の仕事に関わる負担軽減の旗も、同時にふらななきゃいけないの。昔の性別分業から見て、女が男に近づくだけでなく、男も女に近づくこと。

内閣官房は「男が女に近づけ」ってことが全く分かってない。どれだけ低レベルの役人だらけなんだ。それで結局「仕事をしてもいいよ、だけど家事もね」という風に女性が二重負担になっちゃうから、女性が働けない。あるいは子育て出来ない。どっちかを選ぶしかなくなる。

この現状を変える。これが大事なことなんです。それが、何がどう「キャラ弁」に関係あるのか、答えてみろよ、コラ、内閣官房!! 総合職で働く女性を総合職のまま支援しろよ。事実上の自発的降格措置になるようなオプションを設けるのを、企業に許すんじゃないよ。

女性に「働け」と奨励するんだったら、対称的に、男性に「家事と育児をやれ」と徹底的に奨励しろよ。いったい何やってんだ。家事をやれといっても「いや、やったことがないんで」みたいな言い訳をするクソ野郎だらけ。公教育を何とかするように提言しろよ、内閣官房!

「経済回って社会回らず」の現実を何とかする

女性はそういうクソ野郎と結婚するな! (笑)。これは大事なこと。そうすれば結婚したい男性も学ぶよ。短期的には少子化に拍車がかかろうが、かまわない。家事をやらないクソ野郎と、男に家事をやらせようとしないクソ政府こそ、長期的な少子化要因なんだからな。

ちなみに僕は、朝食も作るし、弁当も作ります。幼稚園への送りは僕がやることが多い。そんなことは当たり前だ。えらくも何ともない。幼稚園の送りをして分かることがある。いつも同じお父さんにお会いする。僕のところだと、いつもお会いするお父さんは5人ぐらいかな。

会社の問題で幼稚園に送る時間に合わないのかもしれないけれど、子育てにきちんと参画するという意識があるお父さんが限られているのもあると思う。男の多くが、子供の送りに配慮しない会社になんか就職しないぞ、って思えば、人材がとれないから、会社だって変わる。

国際的には、むしろこれが常識なんです。そういう社会的な合意を作るためにも、「経済を回すために男をフランスの倍働かせる」ってことが異常なんだから、これをまずなんとかしろよ、ということです。当然ですが、女性だけじゃない、男性だって長く働きすぎなんです。

それだけ長く働かないともたない経済なの? そんなの、つぶせよ! なんのために働くんだ。働くために働くなんて、意味がない。日本より格段に短い労働時間で、国際競争市場で戦ってる国民国家があるわけだろうが。倍働いてやっと保てる経済。日本が経済大国だ? 馬鹿か。

日本人はフランス人より男は倍、女も1.5倍働いて、この程度。しかもこれはパートを含めて均しての話で、総合職の人はもっと働いている。さらに今後は残業代を払わない「ホワイトカラーエグゼンプション」も導入されるから、いよいよ厳しい労働条件になる可能性がある。

こういうのは経済の問題じゃないんだ。社会の問題です。社会を生きる僕たちの問題です。社会が分厚くなければ、最終的には「経済回って、社会回らず」ということになるしかない。そうなると、経済がポシャった途端、社会の穴に落ちて、人がどんどん死ぬ。

実際にそうなってるでしょ。それが1997年からの自殺者の急増なんです。97年はアジア通貨危機が波及し、山一証券や北海道拓殖銀行などが倒産した。いろんな会社が潰れた。経済が回らない状態になって、社会の穴に落ちた人たちが多数死んだ。構造は何も変わっていない。

社会を回すために経済があるんじゃないの? 「経済回って社会回らず」なんて本末転倒じゃん。いったい何のために生きてるんだよ。経済が回らなくなったら自殺者が急増って何なの。いずれはまた経済が回らなくなる。経済を回すのを優先順位筆頭にして、どうするつもりだ。

経済を回すために長時間労働して社会を空洞化させる。おかしいと思わないの? 女性の話に戻せば、公共交通機関でベビーカーを利用する女性を蔑む輩や、子育て夫婦なんかに俺の税金を使うなとホザく非モテ独身男が、珍しくないなんて、本当に国辱もの。

安倍晋三を応援してるヒマがあったら、こういう馬鹿に対してこそ愛国者は激昂しろよ。そして内閣官房は、こういう馬鹿をのさばらせない対策をとれ。最初に「内閣官房はヒマすぎ」と言ったが、頼むから、幾らヒマでも、こんなに頓馬なことをぶち上げて恥を晒すのはやめろ。

(構成:東郷正永)

<連載「みなさんの常識は、世界の非常識」概要>
社会学者の宮台真司氏がその週に起きたニュースの中から社会学的視点でその背景をわかりやすく解説します。本連載は、TBSラジオ「デイ・キャッチ」とのコラボ企画です。

■TBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」

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