米国の利下げで日本はどれだけ円高になり得るのか?貿易赤字国に転落した日本の円高反発力に疑問 【唐鎌大輔の為替から見る日本】ポジション調整後、円を積極的に買い進める理由は残っているか?
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注目のコメント
そもそも貿易赤字国の時に利下げを経験した歴史が殆ど無いというポイントについて押さえていない向きが結構多く、そのサンプルになり得る19年7月末以降の円相場の動きは注目したいということは昨年末からモーサテなどでも強調して参りました(文中のマトリックスも昨年12月の放送で使ったものです)。
とりあえず600兆円の残高が取り崩されて云々という解説は後付け極まりないと私は思っています。だったら、円安が進んでいる時にその数字が使われなかった理由がよく分からないからです。ちなみにコラム中ではデータ更新が間に合いませんでしたが、IMM通貨先物の円ショートに関しては8/6時点でほぼ中立化されています。その上での着地が146円という目線は持ちたいところです。
なお、この手の議論になるとどうしても水準を聞かれるのですが、年内2回米利下げ、日銀利上げ打ち止めという過程では、という話であり、ここが可変的であることはリスクとは考えています。
また、本コラムの主題ではありませんが、キャッシュフロー(CF)ベースで見た経常収支も明らかに改善傾向を辿っているのは事実であり、需給面で見た円相場の脆弱性は過去2年間と比較すればかなり修復されているのも事実です。この改善度合いを見ながら、140円台なのか、130円台なのかを検討しているところであり、この論点には原油を筆頭とする資源価格が相当程度で絡んできます。全てをコラムで語りきれるわけではないことはご了承ください。
ご参考になれば幸いです。「140円割れは難しい」という具体的な水準は判断できませんが、ロジック・方向感に関しては、筆者の見方を支持します。かつ、日本は経常黒字国ではありますが、直接投資収益のうち、半分が現地で再投資されており、円高要因になりづらいです。この点、筆者は以前、レパトリ減税を円安抑止策として主張されていたと記憶しています。
日本が貿易収支で稼ぐ国から所得収支で稼ぐ国に転じたのは、化石世代に属す私の実感で言えば1990年代後半以降ですが、リーマンショックのあたりから所得収支の黒字が圧倒的に大きくなって貿易収支が霞んでしまい、貿易赤字に陥る局面も出て来たことは確かです。資源価格と円相場の動きにも因りますが、日本のビジネス環境の劣化が言われ、日本企業が海外生産を増やし、1兆2千億円も補助金を払うことを約束して誘致したTSMCやデータセンターを除けば外国企業が殆ど日本に進出しない状況下で、貿易収支の大きな黒字が復活することは、今後も期待できません。
かつて円が猛烈に強くなり、ニューヨークでもパリでもロンドンでも物価を無茶苦茶安く感じたのは、一物一価の工業製品が世界に高値で飛ぶように売れて貿易黒字が膨らんで円高が進む一方、地産地消のサービス価格は各国それぞれで決まるので、円が強い日本の物価が諸国から見れば高い、逆に言うと諸外国の物価が日本から見れば安いことになったから。今はそれが完全に逆転していますから、経済環境が変わったという唐鎌氏のご指摘は肌感覚として分かります。
ドル円がこの先どのように動くかは、今は誰も知らない、つまり未だ相場に織り込まれていないこれから出て来る新しい情報次第なので何とも言えませんが、少なくともドルの利下げ開始が早まって下げ幅も大きくなりそう、日銀が7月31日に想定以上にタカ派的な印象を与え、いまその修正に動いている、といった情報は161円台から140円近くに急伸して147円台に戻ったドル円相場に既に織り込まれていますので、今後、想定を超えるドル金利の急落や円の長短金利の上昇が起きない限り、ドル円が今の水準を大きく超えて円高に向かう理由は無いわけです。
そうだとすると、彼我の政策金利の差がかつての0.5%程度に戻り長期金利の差が1%程度になったとしても、どこまでドル安・円高になるかは疑問です。少なくともIMFが内外物価が同じ程度になる相場(購買力平価)と見做す90円はおろか、何とかそのように感じられる上限の110円程度まで戻ることはなさそうな・・・
「筆者の抱くメインシナリオでは140円割れは難しいと考えている」というのもむべなるかな。しかしこれは、先進国の物価を高く感じる後進国のレベルに日本が固定されることを意味します。難儀なことではありますね (・・;