2024/8/14
高齢者の「生きがい」に。「UDe-スポーツ」に大学も注目
新型コロナウイルスの感染拡大で翻弄された、医療・介護業界。病院や施設にいた高齢者や障がいのある人たちは、面会制限によって外部とのコミュニケーションが大幅に制限。レクリエーションが中止となり、遊びや他者との交流の機会も奪われました。
そんななか、理学療法士の池田竜太さんは業界に楽しさを取り戻したいとリハビリ施設を退職し、年齢や性別、障がいの有無に関係なく楽しめる「UDe-スポーツ」を考案します。
3回目では、「UDe-スポーツ」によってプレーヤーに起こっている変化、自治体や施設だけでなく大学からも注目される「UDe-スポーツ」の可能性と今後のビジネスの展開について聞きました。(3回目/全3回)
そんななか、理学療法士の池田竜太さんは業界に楽しさを取り戻したいとリハビリ施設を退職し、年齢や性別、障がいの有無に関係なく楽しめる「UDe-スポーツ」を考案します。
3回目では、「UDe-スポーツ」によってプレーヤーに起こっている変化、自治体や施設だけでなく大学からも注目される「UDe-スポーツ」の可能性と今後のビジネスの展開について聞きました。(3回目/全3回)
INDEX
- レクリエーションのマンネリ解消に
- プレーヤーにさまざまな変化が見られるように
- 施設のスタッフのやりがい向上にも寄与
- UDe-スポーツに関する大学との研究開始へ
- 「ごちゃまぜの世界」の楽しさを伝えたい
レクリエーションのマンネリ解消に
順調に導入先を伸ばし、今では全国120カ所で活用されているUDe-スポーツ。導入先として多いのは、病院や高齢者施設、障がい者施設です。導入の目的は、レクリエーションのマンネリ解消だと池田さんは言います。
池田「たとえばデイサービスでは、折り紙や塗り絵はしたくない、運動はしたくないから休みたい、と言って欠席する利用者さんが少なくありません。私の父は76歳ですが、将来デイサービスに行くことがあっても折り紙などはしたくないと言っています。
2025年には『団塊の世代』が全員75歳以上になります。
この世代の方々が施設を利用し始めるのを機にレクリエーションをアップデートして、施設の集客や利用者の欠席日数の減少にもつなげたいと考える施設は多い。そこにUDe-スポーツで貢献できたら、と考えています」
池田さんによると、「施設にとっては、利用者の欠席は収入に直結する問題」なのだとか。将来は、休みがちな利用者をUDe-スポーツでつなぎとめる、UDe-スポーツを利用できる施設が選ばれるようになる、といった未来が実現するかもしれません。
UDe-スポーツは施設や自治体のほか、放課後等デイサービスや高校でも導入されています。放課後等デイサービスとは、発達に特性のある子どもや障がいのある子どもを学校以外の時間にサポートする通所施設です。
池田「放課後等デイサービスで活用されることは想定していなかったので、問い合わせをもらったときは驚きました。子どもの療育に活用したい、とのことでしたね。
UDe-スポーツを導入した高校は福祉科のある学校で、レクリエーションの実習や、地域の高齢者との交流に使っているようです」
自治体がUDe-スポーツを導入する目的は、認知症や引きこもりの予防です。UDe-スポーツを通して住民同士の交流を増やしたり、世代間交流を促したりすることに活用されています。
プレーヤーにさまざまな変化が見られるように
池田さんがeスポーツのサポートをした熊本県美里町の高齢者の中には、「ぷよぷよ」をすることが「生きがい」と話す人もいました。美里町では、ゲームをした住民の間のコミュニケーションが増えるというよい影響もあったそうです。
UDe-スポーツでも、それと似たような現象が起こっている、と池田さんは言います。
池田「UDe-スポーツには、プレーヤーの意欲を高める効果があると感じています。レクリエーションへの参加をかたくなに拒んでいた人が、UDe-スポーツをきっかけにゲームが生きがいになったり、101歳と100歳のご夫婦が同じ施設で競い合っていたり。
ライバルがいる、練習の成果を披露する場がある、目標を持つ、孫などの若い世代から尊敬のまなざしで見られる、といったことが、人を元気にするのだと思います」
習い事やスポーツをしていると、試合や発表の機会が必ずといっていいほどあります。
しかし、年齢を重ねるとケガをせずに楽しむことが優先され、試合や発表からは遠ざかってしまいがちです。池田さんはUDe-スポーツを楽しむ人たちを見て「成長することは何歳になっても大事なのだ」と実感しています。
放課後等デイサービスでは、UDe-スポーツを継続している子どもが順番の譲り合いや待つことができるようになったり、怒りっぽい子どもが穏やかになったり、物事に取り組む意欲が出てきたりという変化が見られるそうです。
施設のスタッフのやりがい向上にも寄与
UDe-スポーツで変化するのは、プレーヤーだけではありません。高齢者や障がいがある方、子どもたちを支援する施設のスタッフにもいい影響が出ている、と池田さんは言います。
池田「ゲームを教えた利用者が、UDe-スポーツに生きがいを見いだしたり、やる気を出したりする様子を見て、仕事のやりがいが増した、という声を聞いています。
人手不足と高い離職率、コロナの影響などで介護の現場は非常に厳しい状況が続いていますが、目の前の支援する人が劇的に変わっていくことが、仕事のやりがいにつながっているようです」
UDe-スポーツに夢中になるのは、高齢者や障がいのある方だけではありません。障がいのない方やゲームが大好きな子どもたちも、このシンプルなUDe-スポーツに夢中になっています。
池田「簡単だからおもしろくない、すぐ飽きるということはないですね。逆に、シンプルでわかりやすいゲームだからこそ、もっといい得点を出せるのではないかと燃えるようです。
イベントで子どもや若者に体験してもらうと、みんな夢中になってプレーしていますよ。『最高得点は何点だよ』『さっきのおばあちゃんは何点を出した』と教えると、その点数を超えるまで何回でもやり続けるんです」
UDe-スポーツに関する大学との研究開始へ
UDe-スポーツは、プレーヤーの心身によい影響を与えると考えられています。手と頭を使うことで、脳の血流が増えるからです。人によってはボタンを押すのに足を使うことから、運動効果も期待できます。
認知機能の土台となる「注意力」に、よい影響を及ぼすことも明らかになりつつあります。
UDe-スポーツ協会が桜十字病院の協力を得て調査したところ、UDe-スポーツを6カ月間プレーした高齢者の7割以上でTMT-B(複雑な注意力の検査)の改善が見られました。
現在、桜十字病院の研究専門機関SACRA(桜十字先端リハビリテーションセンター)と連携し、さらに詳しい研究を進めています。
UDe-スポーツがプレーヤーの心身に及ぼすポジティブな影響には、大学も着目しています。現在、複数の大学から研究の打診が来ているのです。UDe-スポーツの効果について科学的な裏づけが得られれば、活用の場が今以上に増えていくかもしれません。
「ごちゃまぜの世界」の楽しさを伝えたい
池田さんの目標は、UDe-スポーツの導入施設をまずは1000施設にまで増やすこと。UDe-スポーツをもっと気軽に楽しめるような新商品も考えており、タブレットでプレーできるアプリの開発を進めています。リリースは2024年秋を予定しています。
池田「たとえば、地方から東京に出て行った子どもが、熊本の親御さんにUDe-スポーツのアプリを入れたタブレットを持たせてあげるんです。親御さんは東京にいる子どもや孫たちとオンラインでゲームを楽しむことができます。
タブレット版のUDe-スポーツには認知機能を遠隔で見守る機能をつけますから、注意力や判断力が落ちてきた場合は離れた家族にアラートを飛ばすことで早期受診につなげることもできると考えています」
UDe-スポーツがさらに全国に広がれば、子どもから高齢者まで、障がいの有無も関係なく、一緒に混ざり合って遊ぶ世界が実現するでしょう。
池田さんはこれを「ごちゃまぜの世界」と表現しています。この「ごちゃまぜの世界」を、UDe-スポーツを通して実現していくのが池田さんの夢です。
池田「理学療法士として働いていた僕でさえ、eスポーツの事業を始めるまで重度の障がいがある方と交流することはおろか、見かけることもほとんどありませんでした。
社会の支援が手厚くなった分、障がいがある方とない方の生活の場がはっきりと分けられているからです。
でも、eスポーツやUDe-スポーツという“共通言語”があれば、一緒に遊んでお互いを知り、仲良くなることができる。
これまで『自分が働く』イメージを持てなかった重度の障がいのある方が、ゲームを通じて他者と交流し、パソコンの操作を覚え、仕事に就くといった事例も出てきています。
『ごちゃまぜの世界』は楽しいし、大きな可能性に満ちている。そのことを、これからも広めていきたいと思います」
執筆・編集:横山瑠美
撮影:松永育美
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
撮影:松永育美
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
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