2024/7/31
ごみを28種類に分別する町、リサイクル宿泊施設で実体験
現在、日本のごみの焼却率は79.9%と世界第一位(環境省調べ)です。家庭から出たごみのほとんどが焼却施設に運ばれて燃やされているため、日本のごみのリサイクル率は19.9%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国全体平均の34%に比べて非常に低い水準です。
焼却施設の寿命は20年程度。さらに地球温暖化の抑制策もあり、生ごみの堆肥化を義務付ける国も出てきています。
SDGsが世界トレンドとなるなかで、新規の焼却施設をいつまでつくり続けられるのか、過疎化する地方でランニングコストを捻出していけるのか、課題は山積みです。
現在、世界的に注目されているのが、2022年度のごみのリサイクル率84%を誇る日本一のリサイクルの町、鹿児島県大崎町です。資源リサイクル率日本一の町の試みと課題から、今後日本が向かう道や課題、企業ができることは何なのかを探ります。
- ごみ分別を体験できる宿泊施設が誕生
- 見るだけでなく体験してもらうこと
- 自炊をしてみることで初めてわかる分別の難しさ
- 官民連携を成功させるために必要なものとは
- 目的は、大崎町民の暮らしがちゃんと豊かになること
ごみ分別を体験できる宿泊施設が誕生
15年ごみのリサイクル率で全国1位を取得した鹿児島県大崎町は、大隅半島の東岸、志布志湾に面した人口約1万2000人の小さな町です。
2024年4月に、同町で行われているごみ分別を体験できる宿泊施設「circular village hostel GURURI(サーキュラーヴィレッジホステルグルリ、以下GURURI)」が誕生しました。
施設を企画し運営しているのは、官民連携で設立された大崎町SDGs推進協議会で、循環型のまちづくり(サーキュラーヴィレッジ・大崎町)を目指すプロジェクト「OSAKINIプロジェクト」の一環としてスタートしています。
チームリーダーの井上雄大さんにGURURI立ち上げについて伺いました。
井上雄大さん。医療系企業のバックオフィス勤務を経て、東日本大震災後に福島県南相馬市で原発事故後のまちづくりに従事し、官民連携の難しさに直面。2022年に合作に入社し大崎町SDGs推進協議会に参画
井上「企業視察で、リサイクルの施設を見ていただくと、『大崎はすごい』とは言ってもらえるのですが、『大崎だからできたんだね』と、ただ感心して帰られることも多かったのです」
その理由の一つが、視察のチームが近隣の市のホテルに宿泊していたこと。ホテルでは住民が行っているようなごみの分別をすることもないため、せっかく大崎町に来ているにもかかわらず、視察者がリサイクルの町を体感することにはつながっていませんでした。
井上「実際に住民が暮らしに根ざして行っている活動を深く理解してもらいたい。大崎町の分別やリサイクルを実際に体験してもらったほうが、課題にも気づくことができるのではという思いから、滞在し、体験していただくGURURIが生まれました」
見るだけでなく体験してもらうこと
GURURIを訪れてみると、一歩中に入るとまるでおしゃれなホテルの離れのような空間に、広いリビングにキッチンが置かれています。部屋は2つあり、研修に来た人たちがゆっくりとくつろげるつくりです。
GURURIの一室に入ると、のどかな田園の風景が目に飛び込んでくる
GURURIの設計をしたのは大崎町出身、大崎町SDGs推進協議会の遠矢将さんです。
遠矢将さん。大崎町出身。鹿児島大学大学院理工学部修了後、東京の設計事務所などを経て、2022年にUターンした
遠矢「大崎町に滞在してもらうことで、より濃く対応することもでき、関係性が深められるのではないかという仮説もありました。より魅力的な体験を提供すべきだと思いましたし、互いの経験や情報を共有していきたいと思いました」
そんな折、役場から「空き家物件を活用できないか」という話がありました。
そこで、大崎町が所有するいくつかの空き家物件の中から、もともと教職員の宿舎として使われていた建物をリノベーションすることにしたのです。
遠矢「リサイクル率日本一の町ならではの施設って何だろうと考えました。空き家の活用自体が循環です。建物に使われていた木材を再利用してソファにしたり、キッチンの天板には旧保育園の床材を使用するなど、あちこちにアップサイクルリノベーションを施しています」
ベッドルームの脇に置かれたデスクは、廃校になった小学校から引き取りアップサイクルしたもの。そばに置かれた紙袋はごみ入れになっていて、入れたごみは宿泊者が自ら分別を行う
暖房には薪ストーブを用いており、宿泊者が廃材を薪としてくべ、暖を取ります。また、外に設置された湯沸かし用の木質バイオマスボイラーで、湯を沸かしてキッチンやシャワーなどに活用し、循環型の生活を体験することができます。
木質バイオマスボイラーに廃材をくべ、宿泊者自ら湯を沸かす体験をする
自炊をしてみることで初めてわかる分別の難しさ
GURURIでは、宿泊者が自炊体験をすることになっています。
1人750円を払うことで、生ごみと草木を原料にして作られた堆肥で育てられた地元農家の野菜を用意してもらうことができ、スーパーなどで食材を購入したりしながら自分たちで料理をします。
生ごみと草木から作られた堆肥で育った地元農家の野菜
今回、大崎町SDGs推進協議会のメンバーであり町議会議員でもある藤田香澄さんに、調理や分別について説明してもらいました。
藤田香澄さん。長野県生まれ。高校生・大学院生時代の研究を通して国内外の環境や地域課題への理解を深め、大学院修了後は面白法人カヤックに入社。退職後、合作株式会社へ入社し「一般社団法人大崎町SDGs推進協議会」の事務局運営に携わる。2023年4月には大崎町初の女性議員として当選を果たした
藤田「宿泊者の方は、実際に自身の手で分別を体験してみて初めて、分別の課題に直面します。メーカーさんやデベロッパーさんなど、さまざまな企業さんが視察に来られ、分別を体験されています。時代の流れもあり、『自社の事業や商品に生かしたい』と前向きな思いで来てくださる方が増えました」
例えば、コーヒーのドリップパック。抽出済みのコーヒーの殻は生ごみで、ドリップパック自体は埋め立てごみで、包装はプラスチックで……と素材はさまざまで、取材陣も分別に早速迷ってしまいました。
調味料の小袋も中身を出してきれいに洗って乾かす
どの家庭にもキッチンには分別用のラックがあるのが普通だそう
SDGsを意識した商品開発やプロジェクトが立ち上がっていくことで、実際にごみの分別に携わる住民の労力が軽減され、持続可能な社会の実現が見えてくるといいます。
官民連携を成功させるために必要なものとは
現在、地方創生の文脈で、全国的に官民連携の取り組みが活発化しています。
地方創生・まちづくりの分野などで全国の企業や専門家の知恵を借りながら、一緒に課題解決をしていこうという試みは全国各地でなされていますが、井上さんは「うまくいくかどうかは、運営事務局がうまく機能するかどうかにかかっている」と話します。
そこには井上さん自身の経験がありました。
井上さんは東日本大震災後3年半ほど、福島県南相馬市のまちづくりに携わっていました。
南相馬市では、自治体や住民、企業が絡む事業の難しさを目の当たりにしていた
井上「そのときも官民連携事業に携わったのですが、驚くほどうまくいきませんでした。大手のインフラ企業さんや自治体、現地のまちづくり会社などが5社集まって連携したのですが、民間の進め方と大手企業のスケジュール感、自治体の温度感など、それぞれがまったく噛み合わなかったのです」
官民連携を成功させるには、全員が納得して進められるように、会議をうまく進めたり、契約をまとめたりする調整役がうまく立ち回っていなければ難しい。
井上さんは、自身の経験を生かしながら現在チームを牽引しています。
目的は、大崎町民の暮らしがちゃんと豊かになること
リサイクルの取り組みの担い手は地域住民全員。
1955年以降、減少の一途をたどる人口は現在約1万2000人。分別のシステムを持続させていくために、必要なことはまだたくさんあるといいます。
井上さんは、「サーキュラーヴィレッジ・大崎町」のビジョンマップを指さしながらこう語ってくれました。
「サーキュラーヴィレッジ・大崎町」のビジョンマップ(写真提供:大崎町SDGs推進協議会)
井上「このマップを見たときに、町民の方々がこのマップの向こう側に自分たちの幸せな暮らしを想像できるかというと、まだちょっと弱いと思っているのです。
我々の仕事は、循環型社会を実現することによって大崎町民の暮らしがちゃんと豊かになることを、きちんと言語化し、イメージできるよう示すことです」
合作のメンバーであり、大崎町SDGs推進協議会の運営に携わる、(左から)町議会議員でもある藤田香澄さん、建築担当の遠矢将さん、チームリーダーの井上雄大さん
「リサイクルの町から世界の未来をつくる町へ」。25年前に、埋め立て処分場の残余年数が逼迫したことで始まった大崎町のリサイクル活動は新たなフェーズに入っています。
取材・文:MARU
編集:岩辺みどり
写真:工藤朋子
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)