アマゾン、処方薬ネット提供開始 薬局2500店舗と連携
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誤解が生じる可能性があると思いますが、一部報道のように、「アマゾンが処方薬『販売』に参入」と書くと、一般消費者の方は「アマゾンでポチっとすれば、処方薬が買える」と誤解してしまうのではないか、とちょっと危惧します。
・処方薬は、依然として、医師の診断と処方箋に基づいて、薬剤師が服薬指導をした場合にしか、入手できません。
今回の話は、
・「すでに以前から、法制度的には、オンライン診療やオンライン服薬指導、そして、宅配業者やUber等による医薬品の配送が認められていたところに、アマゾンが、複数の薬局グループと連携して、新たなプラットフォームを作り巨大配送網として参入」することで、
・結果として、「オンライン診療やオンライン服薬指導のハードルが下がり、利用率が上がるであろうこと」や、「これまでは個々の薬局グループのオンライン服薬指導にアクセスする必要があった患者が、アマゾンのプラットフォームで多数の薬局グループにアクセスできて便利になる」といったことが想定されます。
患者の利便性の向上であることは間違いなく、さらに今回の参入で、患者のオンライン利用ニーズが高まるとすれば、その前提となるオンライン診療や電子処方箋の導入率がかなり低い医療機関側がどう対応していくのか、そして、打撃を受けるであろう既存の店舗型調剤薬局(個人薬局やアマゾンのプラットフォームに参加していない薬局グループ)にどういった影響があるのか、政策的にはいろいろと気になるところです。
ただ、処方薬の特殊性もあり、他の一般消費財のように、急激にネット販売が実店舗に代わっていくとは、現時点では思いませんが、大きな状況変化をもたらす可能性はあると思います。日本でオンライン処方が実質的に可能になったのは、2022年3月31日付けの改正省令が公布された後です。この改正では、ようやく「薬剤師の責任・判断により初回からオンライン服薬指導を実施可能とする」「オンライン診療・訪問診療において交付された処方箋以外の処方箋においてもオンライン服薬指導の実施を可能とする」になりました。それまでは、「オンライン診療を受けて発行された処方箋しか、オンライン服薬指導ができない」という奇妙なものでした。
「服薬指導」とは、薬剤師の業務の一つで、患者に対して処方薬の薬効や副作用などの説明(情報提供)を行うことです。 薬剤師法で義務として定められている業務ですから、行わずに医薬品を渡すと法に違反します。(医師が診察なしで処方箋を発行するのと同じく)
薬局の開設には、調剤薬局ごとに基準を満たし、個別に開設許可を得る必要があります。
例えば、
(1) 薬局であることがその外観から明らかであること
(2) 面積は、おおむね一九・八平方メートル以上
(3) 医薬品を通常陳列し、薬剤や医薬品を交付する場所は60ルクス以上、調剤台の上は120ルクス以上の明るさであること
(4) 冷暗貯蔵のための設備を有すること
(5) 鍵のかかる貯蔵設備を有すること
(6) 調剤室は6.6平方メートル以上の面積を有し、薬剤師不在時間には閉鎖できる構造であること
(7) 薬局の開店時間内は、常時、当該薬局において調剤に従事する薬剤師が勤務していること
(8) 薬局における1日に扱う平均処方せん数が、40までの場合は1名、40以上は、プラス40(またはその端数)ごとに1名ずつの薬剤師を置くこと
薬局の開設基準にオンライン専業とリアル店舗の区別はありません。オンライン調剤薬局も医療機能を担う調剤薬局で、薬剤師有資格者自身がパッケージング(調剤)を行うことを前提として、上記(8)がありますから、アマゾンが得意とする規模の経済が獲得しにくい環境にあります。したがって、アマゾンは、現時点では「ウエルシアなどリアル調剤薬局を有する企業と協業を行う方がまし」という判断をした模様です。ウエルシアなどリアル調剤薬局にとっても、アマゾンが日本でリアル店舗を開設してくることは絶対的な脅威になり得ることから、協業に関しては利害関係が一致したということになるでしょう。オンライン診療とオンライン処方はセットで考えられがちですが、オンライン処方が当たり前となった地域で医療をする立場からは、実際のところ両者を別に考える人も多く、オンライン処方箋はオンライン診療の拡散には必ずしも貢献しない可能性があります。
今回の改正のように、対面診療後の処方をオンラインに切り替える人が今後大きな部分を占める可能性もあります。実際、私個人も患者として対面診療とオンライン処方の組み合わせを使っています。また、高齢者診療にあたり、そのような患者さんを多く経験しています。診察はあくまで対面が良いが処方はオンラインで配送が良いという層も一定数いるのではないでしょうか。
オンライン処方箋のダウンサイドは、小回りがきかず、急な変更やトラブルへの対応が悪くなる傾向にあることでしょう。地元の薬局なら容易に対応できたような問題でも、オンライン上ではプロセスがブラックボックス化しやすくなり、責任の所在も分かりにくいため、トラブル対応が悪化したり遅くなる可能性があります。このため、どれだけオンライン処方箋が広がってもローカルの薬局のニーズがなくなるとは考えにくく、両者をうまく使い分ける必要が出てくる可能性が高いと思います。