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第1回:「野球女子」の火付け役

観客の7割超が女性ファン。球界の概念を打ち破る、ホークスのエンタメ戦略

2015/6/24
プロ野球では読売ジャイアンツが長らく「盟主」とされてきたが、現状をよく見ると、実質的にその座を担っているのは福岡ソフトバンクホークスだ。売上高は12球団トップで、選手への年俸総額も球界最高。三軍制を敷く独自メソッドで自前の若手選手を育て上げ、12球団随一の戦力で白星を重ねている。親会社の潤沢な資金力をベースとする卓越した経営戦略について、現地在住ライターが隔週水曜日にリポートする。
ソフトバンクの公式ダンスチーム「ハニーズ」から選抜された「ミニハニ」

ソフトバンクの公式ダンスチーム「ハニーズ」から選抜された「ミニハニ」

近頃のプロ野球。「カープ女子」に続き、オリックス・バファローズの女性ファンを「オリ姫」と呼ぶことも定着してきた感があり、「野球は男性の観るスポーツ」というイメージも随分と変わってきた。

5月29日には両チームが対戦した試合(オリックス主催)を「Bsオリ姫デー」として開催。平日ナイター(金曜日)にもかかわらず2万9971人が来場し、大当たりの企画となった。

だが、実は10年も前から、女性をターゲットにしたイベントを継続して行っているのが、福岡ソフトバンクホークスである。

球場の7割以上が「タカガール」

圧巻だった。その規模は他球団では類を見ない。

5月9日、ホークスは本拠地ヤフオクドームでの東北楽天ゴールデンイーグルス戦を、「タカガールデー」と銘打って開催した。ホークスを応援する女性ファンの呼称は「タカガール」である。

この試合、ヤフオクドームの観客動員率100%となる3万8500人がスタンドを埋め尽くした。だが、驚くのはそこではない。なんと「2万8074人」である。

ナニが──?

この試合観戦に訪れた「タカガール」の来場者数だ。球場全体の7割以上(約73%)を、女性ファンが占めたのだ。

ヤフオクドームが女性ファンのピンク一色に

ヤフオクドームが女性ファンのピンク一色に

2年連続で大盛況

「大成功ですよ。ただ、昨年を上回りたかったというのが本音ですけどね」

この企画は昨年の同時期にも行われており、そのときには満員御礼のうち2万8450人の「タカガール」の集客に成功した。昨年比微減だったとはいえ、2年連続でこれだけの実績を残したことに価値があるのだが、福岡ソフトバンクホークス事業統括本部執行役員マーケティング本部長の吉武隆さんは少し悔しそうに苦笑いを浮かべたのだった。

この吉武さんこそ、「タカガールデー」の仕掛け人である。今やホークスの名物イベントとなった「タカガールデー」の軌跡、その戦略などを聞いた。

「タカガールデー」の仕掛け人、吉武隆氏(撮影:田尻耕太郎)

「タカガールデー」の仕掛け人、吉武隆氏(撮影:田尻耕太郎)

野球は「男性のもの」か

2006年、福岡ダイエーから福岡ソフトバンクへと移り変わった2年目に「タカガールデー」の前身「女子高生デー」としてスタートした。毎年「母の日」に近い1日を選び、2013年まではその名称で実施していた。

その誕生について、吉武さんはこう振り返る。

「プロ野球人気の衰退や、野球よりもサッカーなどと言われて久しいですが、やはりわれわれも特に若い世代の野球離れについて危機感を覚えていました。そもそも野球は、ルールの難しいスポーツですし、『男性のもの』という概念が強い。でも、果たしてそうなのか。私はひとつの興行であり、エンターテインメントとしてプロ野球はあるべきだと考えていました」

女心を「ピンク」でわしづかみ

とはいえ、女子高生と野球、である。当時としては挑戦的な企画と思われた。

「いえ、縁遠いからこそ、話題性になると考えたのです」

第1回からイベントは大成功を収めた。「女子高生限定」のチケットは、2000枚があっという間に完売したのだ。

しかも、試合日には徹夜組まで現れて行列ができた。「予想以上の反響でした」と吉武さん。特に彼女たちのハートを熱く揺さぶったもの。それは女子高生デー限定の「ピンクユニフォーム」だった。

女子高生限定チケットには「ピンクユニフォーム購入権」がついており、ユニフォームの価格はたった100円。彼女たちはそれに飛びついたのだ。

2015年のピンクユニフォーム

2015年のピンクユニフォーム

人気ブランドとコラボ

ユニフォームのデザインが可愛く、オシャレだったこともある。

が、何より100円という価格である。ホークスでは、これも他球団より先駆けて、レプリカユニフォームを来場者全員に配布するイベント「鷹の祭典」を2004年から実施しており(「鷹の祭典」の名称は2005年から)、そのノウハウがあったために「100円ユニフォーム」の販売が可能だった。

しかも毎年デザインが変わる。さらに2011年から3年間は女性に人気のブランドと連携。2011年は「CECIL McBEE」、2012年は「X-girl」、2013年は「MOUSSY」とコラボし、より女性ファンのハートをくすぐることに成功したのだ。

母が子を連れてくる好循環

そして昨年からより幅広く、より多くの女性ファンに向けてイベント自体をパワーアップ。「タカガールデー」と改称したのである。

ピンクユニフォームは「来場者全員」への無料配布とした。さらに限定グッズも30アイテム以上、限定グルメも10種類以上が発売され、タカガールデーに付加価値をつけたこともあり、女性ファンのみで2万8000人以上を集客することにつなげたのだ。

もちろん、「継続は力なり」でもある。女子高生デーを始めた当時の彼女たちは、今は母となり、子どもたちを連れて球場へ足を運ぶようになった。もちろんおじいちゃん、おばあちゃんも一緒に観戦というケースも多い。

「現在、ヤフオクドームの来場者は、普段でも女性が半分ほどを占めているのです。しかも10代から60代までほぼ均一に分かれています。柳田悠岐選手や今宮健太選手ら女性に人気のあるイケメン選手が多いのもホークスの特徴ですが、私どもとしても理想に近いかたちとなっています」

老若男女で盛り上がる観客席

老若男女で盛り上がる観客席

女性向けイベントを増加

今後の課題は「タカガール」というネーミングの浸透度。「カープ女子」、さらには「オリ姫」にすら遠く及ばないのが実情だ。今年の開幕前だったか、「アメトーーク!」(テレビ朝日系列)で野球ネタが放映された回でも「鷹嬢」と間違って紹介されていた。

「今後は女性向けのイベントの回数を年に1回のみではなく、増やすことも考えています」

さっそく6月21日のソフトバンク×日本ハム戦(ヤフオクドーム)では「ちょっと大人なタカガールデー」を開催し、ゲストに「PUFFY」を迎えてトークイベントなどが実施された。さらに夏にも別企画が進行中だという。

タカガール、そして「熱男」たちの大声援を味方に戦うホークス。昨年に続くリーグ連覇、そして2年連続日本一に向けて現在はパ・リーグの首位争いを演じている。

(取材・文:田尻耕太郎、写真提供:SoftBank HAWKS)

*本連載は隔週水曜日に掲載予定です。