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“ざっくり解説”ROE。最新決算から見る大手企業の純利益率

2015/6/24
企業・業界分析プラットフォームの「SPEEDA」では、その膨大なデータと分析知見を活用して、アナリストが業界リポートを提供している。SPEEDA総研では、マーケットに大きな影響を与えるトレンドやニュースをアナリストがピックアップし、定量的・定性的な視点で詳説する。今回は、最近経済ニュースに頻繁に登場する「ROE」にフォーカス。経済を知るうえで必要なキホンを解説する企画「SPEEDA総研 BASIC」の第一弾として、ROEを理解するための基本情報やSPEEDAのデータも使って、全5回でお届けする。

ROEを“ざっくり”理解する

最近の経済ニュースでは、「ROE」という言葉を頻繁に見聞きする。しかし、多くの経済ニュースやディスカッションでは、読者などの受け手がROEや関連用語などを知っていることを前提に展開され、ROEを理解していない人にとっては、ハードルが高い。

Webで検索をすれば、ROEの定義を説明するコンテンツもあるが、自身に適したボリュームやクオリティのコンテンツに出合えるかどうかは未知数。そこで今回は、ROEについて「“ざっくり”わかった!」と読者の皆さんに言ってもらえるように、短期連載でROEとそれに関連する用語を、構成要素のランキングなどと併せて解説する。

ROEをすでにわかっている人には、SPEEDAの最新データを活用して新たな発見を提供。実際のビジネスに役立つ情報を提供できれば幸いである(“ざっくり”解説をコンセプトに置くので、詳細にはあえて触れないことをご容赦いただきたい)。

現時点でのラインアップは、下記の5つを予定している。しかし、読者の皆さまのコメントも参考にして、必要であれば柔軟に内容の変更・追加をする。「これがわからない」「これについても知りたい」といったフィードバックをいただければ幸いだ。

<連載ラインアップ>
Vol. 1:純利益率ランキングはどうなっている? PLって何?
Vol. 2:株主資本比率ランキングはどうなっている? BSって何?
Vol. 3:ROEランキングはどうなっている? ROEって何?
Vol. 4:デュポン・システムって何? ソフトバンクを分解すると?
Vol. 5:“日本株式会社”はどう推移してきた?

押さえておきたい3つのキホン

ROEは「純利益÷株主資本等合計」で計算された数値である。
 grp01_ROE式

これはPL(損益計算書)とBS(貸借対照表)という、2つの財務諸表の科目(数値)を使って計算する。そのため、ROEを知ることは、PLとBSを学ぶことにもつながる。第1回の今回は、ROEについて言及する前に、純利益率のランキングを見ながら、PLについても学んでいく。

今回伝えたいポイントは、下記の3項目である。
 grp02_point

純利益率ランキングをみる

3月末決算企業の業績発表がほぼ終わった。そこで、最新データをSPEEDAから抽出し、純利益率(純利益を売上高で割ったもの)ランキングを作成した。選定した企業は金融業を除く上場企業の中で、売上高が上位50位以内に入っている企業。

選定企業の5年平均の純利益率を計算し、上位20位に入ったのが下記に示した企業である。上位3社が携帯キャリア、その後にキヤノンが続いた。

一方、2兆円を超える純利益を出した絶好調のトヨタ自動車は、純利益率のランキングでは10位(5年平均値)。直近1年で同じ比較対象企業でみても8.0%で5位となっており、トップの座はKDDIが座る。NTTドコモの直近の数値は5年平均率より低い水準であり、米国で絶好調な富士重工業が3位に入っている。
 grp03_純利益率ランキング

財務諸表って何?

企業が扱うお金の状態を記録したものを財務諸表と言う。中でも主要なものが、PLとBS、CF(キャッシュフロー計算書)の3つ。これらを総称して「財務3表」と呼ぶ。
 grp04_財務3表

それぞれの表に、関連する科目(お金の種類)が記録されており、目的に合わせて、ひとつもしくは複数の財務諸表を参照する。たとえば、前出の純利益率ランキングは、PLを参照・計算しており、ROEはPLとBSに記載される科目から計算する。

3表で示したデータは関連づけられており、複数を読みこなせるようになると理解できる範囲が大きく広がる。個人的には「決算書がスラスラわかる 財務3表一体理解法」(朝日新聞出版)が、財務諸表をざっくりと理解するためにオススメの本である。

PLって何?

PLは、1年間にどれだけ売上があり、その売上のためにどういう支出があったのかを把握する財務諸表である。○○利益といった言葉が複数あるが、重要なのは「売上からいろいろな費用を引くと、○○利益になる」「全部の費用と純利益を足すと売上になる」という点だ。
 grp05_PL

いろいろな費用や利益は何を意味するの?

金融業以外のPLのざっくりとした構造は、上から順番に下の図のようになっている。
 grp06_PLの構造_売上高

売上高、売上原価、売上総利益、販売管理費、営業利益、営業外収益・営業外費用、経常利益、特別利益・特別損失、税引前利益、法人税等合計、少数株主利益、当期純利益。同じような言葉が複数あるので、挫折しやすいポイントだが、「ざっくり」で大丈夫なので、頑張ってほしい。

これらは「科目(勘定科目)」といい、それぞれが異なる意味を持つ。ただ、最初からすべての科目名や意味を理解する必要はない。まずは流し読みをして、重要なポイントを感覚値としてつかむことが重要だ。

図の見方は、まず売上高から売上原価を引いたものが売上総利益。また、売上総利益は、売上総利益より下の項目(販売管理費から純利益まで)を合計したものとも言える。次にそれぞれがどういう意味を持つか、費用をみていこう。
 grp07_PLの構造_費用

費用側の意味が理解できると、利益側の意味が理解しやすくなる。粗利は、モノをつくった・仕入れた後に残るお金を指す。商社であれば仕入れて売ることが商売なので粗利率は低くなりがち。一方、ブランド品のような高付加価値品の製造であれば、逆に粗利率は高いことが多い。

次に販売管理費について。販売管理費は、まさに販売するための費用、管理のための費用のこと。売上総利益(粗利)から販売管理費を引いた営業利益は、本業で稼ぐ力を表しているとよく言われる。このようにいろいろな費用などが発生して、最後に今期いくら儲かったという指標が純利益になる。

金融のPLの構造は?

純利益率ランキングで金融業を除いたが、これは金融のPLの構造が他業種と大きく異なるからだ。というのは、金融はモノを売り買いするのではなく、お金を調達してそれを投資・融資といったかたちで運用し、その差額で儲けるビジネス。

財務諸表の名称も異なる。たとえば、売上という言葉を使わず、経常収益という言葉からPLが始まる。さらに銀行と保険など、同じ金融業でも業態ごとでさらに異なる(ただし、経常利益以下は同じ構造)。

ざっくり理解のためには、「金融はいろいろ違うけれど純利益は存在する」ということだけ覚えておけば問題ない。なお、損害保険のPLの構造は、「SPEEDA総研」で東京海上ホールディングスのM&Aを解説した記事で少し説明しているので、気になれば参照いただきたい。

売上高上位1000社だとランキングはどう変わる?

最後に、金融業を除く上場企業の中で売上高上位1000社に拡大して、その中のトップ20についてみてみよう。顔ぶれが完全に変わる。

上位50社ではトップだったNTTドコモの5年平均純利益率は10.7%だったが、上位1000社でみるとトップ20にも入っていない。そして上位に入っている企業はヤフーやトレンドマイクロなどのインターネット・ソフト企業に加え、ガンホー・オンライン・エンターテイメントなどのゲーム企業。

その中で、キーエンスやファナック、SMC、HOYAなど一部の製造業や、小野薬品や参天製薬など医薬品の比較的規模が小さい企業が利益率という観点では上位にいるのが興味深い。なお、第一三共は、買収をしたインド子会社のランバクシーを、サン・ファーマが株式交換によって吸収合併した。一連の取引に伴って特別利益が発生して、一時的に純利益率が上がっている。

次回は、BS(貸借対照表)について“ざっくり”解説していく。
 grp08_純利益率ランキング_1000社
 grp09_まとめ