2024/7/17
最後に勝てばOK。大きな目標を叶える「勝利の方程式」
ベストセラー『デザイン思考2.0 人生と仕事を変える「発想術」』(小学館)の著者、 松本勝さん。
これまで不可能とされていた「意見」や「アイデア」の価値を数値化する技術を開発するなど、起業家として前人未到のチャレンジを続ける一方、 “マッスル社長”としても知られているのをご存じですか?
論理的かつ効率的なトレーニングによってボディビル、アームレスリングなどの大会で数々の成績を残してきた松本さんは、どのようにモチベーションを保ってきたのでしょうか。 強い精神力を養う「心の筋トレ」メソッドを聞きました。
これまで不可能とされていた「意見」や「アイデア」の価値を数値化する技術を開発するなど、起業家として前人未到のチャレンジを続ける一方、 “マッスル社長”としても知られているのをご存じですか?
論理的かつ効率的なトレーニングによってボディビル、アームレスリングなどの大会で数々の成績を残してきた松本さんは、どのようにモチベーションを保ってきたのでしょうか。 強い精神力を養う「心の筋トレ」メソッドを聞きました。
INDEX
- 全ての基本は「理想の状態」の明確化
- 継続して努力する3つのポイント
- 自分の限界を決めつける前に問うべきこと
- 失敗を気にするプライドはどうでもいい
全ての基本は「理想の状態」の明確化
あなたにとって、理想の状態とは何ですか?
どのような状態であれば、幸せですか?
こう聞かれて、パッと明確に答えられる人はどのくらいいるでしょうか。松本さんは 「人生のビジョンが何より重要」と言います。
松本「ビジネスでもビジョンが重要と言われますが、人生も同じです。『将来〇〇になりたい』ではなく、 『〇年後に、どういう状態で、どのような気持ちで、どういう毎日を送りたいのか』を解像度高くイメージする。
大きな未来の理想像があれば進むべき方向性がわかりますし、そこから逆算すれば、今の自分がいつまでに何をすればいいのか、おのずと見えてくるはずです」
ビジョンは長期的に目指すものだからこそ、 「ストレッチゾーンを意識するといい」と松本さん。
松本「今の状態を踏まえたビジョンはコンフォートゾーンに収まりがちです。そのほうが楽ですが、10年後にどの程度成長できるかは疑問ですよね。
かといって、絶対に不可能なパニックゾーンの目標までいってしまうとどうしていいかわからなくなってしまう。
だからこそ、 『頑張ったらできそうだけど、簡単ではない状態』を意識し、緊張感のあるストレッチゾーンのビジョンを設定しましょう」
仮に何も浮かばない場合は、ひとまず今の会社を軸に考えてみること。 「会社のビジョンと自分のビジョンをいかに一致させるかが重要」と松本さんは続けます。
松本「要するに、自分が成長したら会社も成長していて、それによって自分が幸せであること。
それが自分と会社の双方にとって幸せな状態です。そこに目を向けることは、今の会社でこのまま働き続けるのか、別の道に進むのか、今後のキャリアを考えるきっかけにもなると思います」
加えて、いろいろな人の生き方に触れてみる。暫定的にロールモデルを設定すれば、自分の理想像が見えてくると言います。
松本「憧れの生き方をしている人がいたら、いったんそこに方向性を合わせましょう。
その上で『自分だったらここはこうしたい』といったカスタマイズを入れていく。そうするうちに方向性は徐々に変わっていき、オリジナルの理想の状態を見いだしていけると思います」
ビジョンや目標、やりたいこと。それらを持つことは「人生を豊かにしてくれる」と松本さん。特に AI時代における「目的をデザインする力」の重要性を指摘します。
松本「目的さえ決まれば、ソリューションはAIが見つけてくれます。逆にいえば、目的のデザインは自分でしなければいけません。
何が成功で、何が幸せなのか。そういった定義を自分で決め、目的をデザインする力がこれからの時代、最も重要になると思います」
継続して努力する3つのポイント
理想の状態を実現するには、努力を続ける必要があります。そのポイントは大きく3つ。まず1つ目が、 継続のための仕掛けづくりです。
松本「なんとなく努力するのではなく、可視化できる指標を持ちましょう。
筋トレだったらベンチプレスの重量が上がった、ダイエットなら体重が落ちた、仕事なら売り上げが前月比何%アップしたなど、自分のモチベーションが上がるKPI(重要業績評価指標)を決め、進捗を見ることが重要です」
2つ目は、 KPIの設定の仕方。すなわち目標達成に必要な要素を因数分解し、 「勝利の方程式」を立てることです。
松本「筋トレなら『才能×努力量』、営業なら『サービスの魅力×商談数』、女の子と付き合うなら『自分の魅力×合コン数』といったように、世の中で目標を達成する人は因数分解ができています」
その際、注目すべきは変数です。「才能」「サービスの魅力」「自分の魅力」は変えるのが難しい要素ですが、「努力量」「商談数」「合コン数」などは自分次第ですぐに動かせる変数。
思うような成果が出ないときこそ、 「落ち込む前に変数の見直しを」と松本さん。
松本「仕事で圧倒的な成果を出そうと思ったら、効率性だけじゃダメなんです。なぜなら 『生産性×投下時間』で基本的には決まるから。効率的な天才が1分やるより、凡人が6時間やったほうが成果は出ます。
今の自分の能力や生産性を踏まえ、どのくらいの投下時間で目標にたどり着けるのか、意識することが重要です」
そして3つ目が、 「塵(ちり)も積もれば山となる」の効果を過小評価しないこと。あらゆる分野において、人間が認識できる1日の変化はごくわずか。でも、「認識できないだけで確実に変化は起こっている」ことを常に意識できるかが命運を分けます。
松本「ダイエットでいえば、カロリーを抑えれば長期的に見て体重が落ちることはわかっていますよね。
この『わかっている』から目を背けず、周りから『今日くらいいいじゃん』と言われても、カロリーを抑えると決めた自分を信じること。1年の中の1日は365分の1ですが、それを1年間続ければ365倍になる。
それを忘れず、365分の1の積み木を着実に重ねていきましょう」
目に見える変化がなく、「無意味かもしれない」と心が折れそうになるときに自分を支えるのが、 「理想の状態になりたい」という強い気持ち。そういう意味でも、最初にビジョンや目標を明確にすることが重要です。
松本「『なんとなく』では努力できないですよ。
私はフィジークなどボディビル系の大会に出ていますが、『あの大会で絶対に勝ちたい』『なぜなら去年負けて悔しかったから、二度とあんな思いは味わいたくない』など気持ちの解像度が高いから、つらいトレーニングも頑張れるわけです」
自分の限界を決めつける前に問うべきこと
年齢を重ねるほど、「自分はこの程度だろう」となんとなく自分の限界が見えてきたような気がしてしまうもの。理想の状態を実現できるはずだと信じることも、難しい気がしてしまいます。
そう松本さんに問いかけると、「あくまで私の感覚ですが」と前置きし、「世の中の95%くらいは継続的な努力が難しいのかなと思います」と厳しい答えが返ってきました。
松本「ジムに入会して1年間筋トレを続ける人は3〜4%しかいないというデータがあります。それだけ継続した努力ができている人は少ないということです。
自分の限界を決めつける前に、 『本当に100%努力をしたのか』『やり切ったと言えるのか』を問うことが大切だと思います」
成果を上げる上で、実は才能が占める割合は少ない。だからこそ、仕事も勉強もスポーツも「才能の差なんて大抵は努力量で追い抜けます」と松本さん。
松本「一握りのトップの人たちは上位1%の才能があって、しかも死ぬほど努力をする人であり、ここにはどれだけ頑張っても及ばないかもしれません。
でも、死ぬほど仕事を頑張れば、上位1%の才能がなくても年収数千万円程度の水準まではいけます。
努力量の変数を変えるだけで、平凡な才能でも上位数%には届く。それが世の中の仕組みです」
自分を信じ、努力を重ねる。ここまでのメソッドを実践するには、強い精神が全てのベースとなりそうです。では、“心の筋トレ”はどうすればいいのか。
その方法は、 「成果に対して、ただの成功・失敗と考えないこと」。それによって動じない心がつくれると言います。
松本「何かにチャレンジして失敗したとき、落ち込む人は多いですが、その時間は無駄です。失敗に対して『このやり方がダメだと発見した』とエジソンは言いましたが、トライした先の学びに着目すれば、結果に関係なく自分の最適解に近づいていけるわけじゃないですか」
松本さんはゴールドマン・サックスに新卒入社した当時を振り返りながら、説明を続けます。
松本「当初は1億円のトレードにパニック状態でしたが、5年も経てば1兆円の取引をしているわけです。要するに、リスクを取る経験を繰り返していくと、大抵のことには動じなくなる。
日々のチャレンジも同じことで、経験を重ねる中で心の耐久度が上がり、『このくらいなら大丈夫』と修羅場でも冷静な判断ができるようになるわけです」
失敗を気にするプライドはどうでもいい
成果の捉え方を変えて“心の筋トレ”をするには、未来の大きいビジョンを意識することが重要です。ところが多くの人は「一つひとつのマイルストーンを短く置きすぎ」だと言います。
松本「例えば『今回のプロジェクトを成功させる』という短期目標と同時に、『あらゆるプロジェクトをスムーズに遂行できる人になる』という長期的な目標を持つ。
そうすれば、たとえ目先のプロジェクトで失敗したとしても、そこから学びを得て長期的な目標に対して成長していると思えば、ショックは少ないじゃないですか」
松本さんが時に絶対に勝てないボディコンテストにも出場するのは、まさに大きな目標を見据えているから。
松本「大会に出ればフィードバックがもらえますし、動画で客観的に他の選手と並んだ姿を見ることで自分の現在地が把握できます。
『将来的にこういう選手になろう』という目標に対して、今はただの通過点。 たくさんチャレンジして、たくさんフィードバックをもらったほうが近道なんですよ」
それを阻害するのは自分のプライドだけ。「そんなものはどうでもいいんです」と松本さんはバッサリ。
松本「長期的に見て、最後に勝てばいいんです。人生の道は一つひとつのトライが成功と失敗に分岐しているわけではなく、勝負は最後に決まります。自分が目標を達成することに集中すれば、自然と周りの評価は気にならなくなっていくと思いますね」
大きな目線を持ち、着々と毎日のトライを続け、その結果は学びの糧に変え、精神を鍛える。それは成長の実感にもつながります。
松本「昨日より今日の自分のほうが前に進んでいたら、いつかゴールには行くわけです。嫌なことがあっても、『少なくとも今日はこれをやって目標には近づいた』という事実があれば相殺できます。
たとえ成長のスピードに納得できなくても前に進み続けていれば、何もしなかった人に負けるわけがありません」
執筆:天野夏海
撮影:大橋友樹
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:奈良岡崇子
撮影:大橋友樹
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:奈良岡崇子