2024/7/17
組織が回っていないと感じたら。一流のマネジャーの思考法
デザイン思考。最近よく耳にするワードですが、「実は地方の中小企業、特にミドルエイジのビジネスパーソンに役立つ思考法」だと話すのは、ベストセラー『デザイン思考2.0 人生と仕事を変える「発想術」』(小学館)の著者、 松本勝さん。
日々の業務の中で、デザイン思考をどのように役立てればいいのか。中小企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を例に、そのポイントを紹介します。
日々の業務の中で、デザイン思考をどのように役立てればいいのか。中小企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を例に、そのポイントを紹介します。
INDEX
- 中小企業のDXはもっと気軽に考えていい
- デザイン思考はマネジメントにも生きる
- 組織の鍵を握るのはミドルマネジメント
中小企業のDXはもっと気軽に考えていい
全国の企業、自治体で進むDX。地方の中小企業にとっては、喫緊の課題である人手不足を解決する手段としても有効です。人が担っていた業務をデジタル化できれば、劇的なコスト削減にもつながります。
DXのステップは「1. デジタル化」「2. デジタル化によって収集した社内データの連携」「3. ビジネスモデルの変革」の3つですが、 「ファーストステップを終えて満足してしまうケースは多い」と松本さんは指摘します。
松本「DXの『D(デジタル化)』に着手しただけで、肝心のビジネスモデルにまで踏み込む『X(トランスフォーメーション)』に至らないケースは企業規模を問わず、非常に多いです」
話題の生成AIについても、「生成AIでどう業務を効率化するか」にばかりフォーカスし、「生成AIを使って新しいビジネスをどう生み出し、顧客体験を変えるか」には目が向いていない企業が目立つように感じると松本さん。
松本「インターネット黎明期で考えれば、手紙やFAXをメールに変えるのは業務効率化になるけれど、それによる自社の競争優位性は生まれませんよね。
インターネットを活用してECサイトを作り、顧客体験を変えるなど、テクノロジーでビジネスモデルやサービス自体を変革するところまで行うのが本来のDXです」
中小企業の場合、ファーストステップであるデジタル化すら進んでいないことも。そこからビジネスモデルの変革まで行う道を考えると気が遠くなりそうですが、松本さんは「もっと気軽に考えていい」と補足します。
松本「DXの最初のステップは大したことじゃないんですよ。極端な話、計算を筆算から電卓に変えるのだってDXです。面倒な作業が便利になる業務効率化であり、DXに取り組んだほうが楽になるという認識を持ちましょう。
その上でいきなり100点を狙うのではなく、『仕事が楽になったらラッキーだよね』くらいの感覚で、自社のITリテラシーに合わせてツールを選び、まずはフリートライアルで試してみるくらいのスタンスでいいと思います」
大企業と比べて小回りが利きやすいのが中小企業の良いところ。その際、自分たちの業務効率化と同時に、「顧客の生活を便利にすることを考えればいい」と続けます。
松本「自分たちの仕事を業務効率化するのがDXの守りの部分だとすれば、デジタルを使ってお客さんの体験や生活を便利にするのが攻めの部分。
それらは表裏一体でもあり、例えばチャットボットの導入は社員の作業工数を減らし、顧客に対して24時間対応を実現することにもなりますよね」
これまでデジタル投資を積極的にしてこなかった企業の場合、デジタルの導入に尻込みしてしまいそうですが、「かえってDXを進めやすい面もあります」と松本さん。
松本「DXを進める際に既存のデータの扱いに悩む企業は多いですが、これから始める場合はゼロから考えていけます。ビジョンを描き、それに合わせてツールを選定していけるのは大きなメリットです」
デザイン思考はマネジメントにも生きる
そして、DXの最終地点であるビジネスモデルの変革につなげていくのに必要なのが、 デザイン思考です。
松本「最も重要なのは最初のステップです。組織で目的やゴールを共有し、定期的に立ち返ったり、『本当の理想の状態はこうではないか』と目的自体を再定義したりしながら、WhatやHowを考えていくのが重要なわけです。
ところが、実際には会議の中で目的がスキップされたり、あるいは『これが目的に違いない』と疑うことなく話が進んだりと、WhatやHowの部分ばかり議論していることが非常に多いです」
「どうやるか」よりも「なぜやるのか」を意識し、ベストな方法を日々考える。それはマネジメントにおいても同じだと続けます。
松本「人間は生き物で、それぞれ違う。その前提に立ち、各メンバーが本当に求めているものは何か、考えた上でマネジメント方法を変えたり、成長プランを作ったりするのが大切です。
そこをスキップしてしまうと、全員に同じマネジメント方法を踏襲するだけになってしまい、離職にもつながりかねません。一人ひとりのエンゲージメントを上げて、良い会社、風土をつくっていく意味でも、デザイン思考は必須だと思います」
組織の鍵を握るのはミドルマネジメント
「なぜやるのか」に立ち返って、より良い方法を模索する。それが良いことはわかりつつも、原点回帰して目的に立ち返るのを面倒に思ったり、過去のやり方を踏襲していたほうが楽に感じたりしてしまうことも。その原因は 「現状維持バイアスにある」と言います。
松本「新たな変化は予測ができません。DXによって働き方がどう変わるのか、新しいテクノロジーで新規事業を始めたら収益がどの程度出るのか、わからないから変化を回避しようとしてしまうわけです」
そこで鍵を握るのがミドルエイジのビジネスパーソンです。野中郁次郎さんが『知識創造企業』(竹内弘高氏との共著、東洋経済新報社)で提唱した「ミドル・アップダウン・マネジメント」の考え方を元に、松本さんはその重要性を説明します。
松本「組織が円滑に回るために特に重要なのが ミドルマネジメントの存在です。
トップは10年後、20年後の未来かつ重要なことを考えているのに対し、現場は今期や来期といった短い期間かつ緊急性の高いことに注力する。
それぞれ物事の考えや優先順位は全く異なるわけで、この相反する経営者と現場の間に挟まれているのが、ミドルマネジメントですよね」
企業経営の透明性が求められる中、組織の透明性確保が企業の責任として問われています。旧来型のトップダウンで社員を従わせるマネジメントが通用しないからこそ、「中間を担う人間の重要性が増している」と続けます。
松本「経営者とメンバーの片方に味方するのではなく、両方に共感し、それぞれの意見を理解した上で第3の案を提示するのが一流のマネジャーです。
部下の本当のニーズに目を向けて、それを可視化し、上司や経営層に提言する。デザイン思考は、そのような相反する課題に対するソリューションを見つける思考法でもあります。
つまり組織を良くする役回りはミドル層にしかできないこと。そして、その方法としてミドルマネジメントにデザイン思考が求められているのだと思います」
起業家である一方、“マッスル社長”としても知られる松本さん。 後編では、論理的かつ効率的なトレーニングによってボディビル、アームレスリングなどの大会で数々の成績を残してきた松本さんに、 強い精神力を養う「心の筋トレ」メソッドを伺います。
執筆:天野夏海
撮影:大橋友樹
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:奈良岡崇子
撮影:大橋友樹
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:奈良岡崇子