老後に必要な資金は「3500~5000万円」!?2024年年金財政検証の収支改善は本当か - 野口悠紀雄 新しい経済成長の経路を探る
コメント
注目のコメント
そもそも2000万円とされていた老後資金は、直近の家計調査詳細データに基づけば、1200万円まで下がりますので、そこを前提にすれば所得代替率の低下を加味しても、必要金額はそこまで大きくならないでしょう。
なお、老後2000万円必要における支出も、貯蓄を平均2300万円以上保有している家計の支出が前提になっていますので。
最も避けたいのは、こうした数字が独り歩きし、より節約志向が強まることでマクロ経済の足を引っ張り、より年金財政が悪化することでしょう。よく言われていることですが、国民皆年金ができた1961年当時、平均寿命は男性が66歳、女性が70歳でした。定年は55歳、したがって、定年後、約10年間を退職金と厚生年金で賄っていたイメージです。
現在、平均寿命は男性が81歳、女性が87歳ですので、当時と同じくらいの生活を送ろうとすると、極めてラフではありますが、70歳まで働くのが自然、ということにはなります。「ケース(1)でもケース(2)でも、年金額増加率は保険料増加率より高い。これは受給者の増加率が保険料支払い者の伸び率より高いから」という説明と図表を見比べて私には理解が難しいところがありますが、年金保険料は賃金に確実に比例して増えるのに対し、既に年金を受給している人達の年金は原則的に物価スライドですから、賃金上利率がインフレ率を上回るとの前提を置けば年金財政が楽になるのはあきらかで、冒頭の部分を含め、この記事の試算と説明はすべてその通りと納得です。
年金は年金保険料が毎年流入するGPIFという年金積立金を運用する巨大なプールを作り、そこから年金給付額が流れ出して行く構図です。巨大なプールの中の水(年金積立金)は運用成果で増えたり減ったりしますけど、既に年金裁定を終えて支払いが決まった支払金額だけでも3000兆円くらいはある筈ですから、200兆円かそこらの水には調整池程度の機能しかなく、流入する保険料と流出する保険料のバランスで年金の将来が決まるのです。
2004年の年金大改革は流入する保険料に上限を儲け、プールの水(積立金)が枯渇しないよう、マクロ経済スライドで流出額を毎年1%程度減らして行くことにしたのです。2019年の財政検証と今年の財政検証を比べると、厚生年金の加入要件を緩めてパートの主婦とその雇用者に年金保険料を払わせ、外国人を加入させ、年金の支え手を増やした上に、GPIFの運用が好調だったので、一見、年金の財政が好転したように見えるのです。
しかし、少子化が想定以上に進み寿命も想定以上に伸びている以上、中長期的に見て年金財政が健全化する要因はさほどありません。流出を抑えるマクロ経済スライドにしても、今年は賃金伸び率3.1%、マクロ経済スライド△0.4%、年金額の改定+2.7%としましたが、賃金は3.1%も伸びておらず、マクロ経済スライドを実施した形を取りながら年金を実態的に増加する甘い運用が取られています。
遠からず、年金保険料の納付期間を延ばす、受給開始年齢を引き上げる、といったことが話題になることは必定だろうと思います。年金だけで暮らそう、というのは、余程の倹約家でないと無理なことになりそうな・・・ (・・;