1825【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-34

【スライド】FC東京の戦術特徴を示す3つのデータ

2015/6/16

前回の記事で、「ボール奪取からの10秒以内のシュート数」を取り上げ、そこからFC東京と名古屋の類似点と違いに注目した。今回は東京と名古屋の違いをデータ比較し、東京の戦術をひも解く(データはすべて14節終了時点を使用)。

 1745【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-01

 1842【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-02

 【1841マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-03

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-04

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-05

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-06

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-07

 0022【マスター】Jリーグ_FC東京_20150616-08

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-09

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-10

 1822【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-11

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-12

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-13

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-14

 1842【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-15

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-16

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-17

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-18

 1710【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-19

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-20

 1708【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-21

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-22

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-23

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-24

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-25

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-26

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-27

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-28

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-29

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-30

 1708【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-31

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-32

 1557【マスター】Jリーグ_FC東京_20150614-33

常識に反するFC東京のサッカー

FC東京のデータを眺めていると、どうして上位にいるのかが不思議に思えてくる。

たとえば「総シュート数」を見ると110本しかなく、18チーム中17位にすぎないのだ(以下、データはすべて14節時点のもの)。

昇格組の山形(144本)や松本(132本)よりシュートが少ない。FW武藤嘉紀、DF森重真人、太田宏介、GK権田修一がハリルホジッチ監督から招集され、「最も日本代表が多いクラブ」であることを考えると、やや物足りない数字だ。

シュートの少なさは、「ボールを奪った後にシュートに至る割合」がリーグ最下位であることも関係している。

FC東京は「1004回奪って36本」しかシュートにつなげられていない。一方、川崎は「1000回奪って93本」シュートに持ち込んでいる。サッカーのセオリーでは、ボールを奪ったあとはカウンターを仕掛ける大きなチャンスなのだが、FC東京にはその常識が通用しないらしい。

だが、その“非常識人”が順位表ではエリートに変貌する。

FC東京は勝ち点26で3位につけ、2位サンフレッチェ広島との勝ち点差はわずか1。現時点でトップ3のチームなのだ。

フィッカデンティ監督の静かな怒り

いったいFC東京に何が起こっているのか?

東京都小平市にある練習場を訪れ、マッシモ・フィッカデンティ監督にストレートに質問をぶつけた。なぜシュート数が少ないのに上位にいるのか、と。

47歳のイタリア人監督は、たしなめるように語気を強めた。

「野球やバスケットボールであれば、数字に意味があるだろう。だが、サッカーは他のスポーツとは異なる。1秒ごとに状況が変化し、常に判断を変えなければならない。そういう意味で、サッカーは唯一無二のスポーツだ」

怒るのも当然だろう。失礼な質問をぶつけられ、さらにその手元にはFC東京のランキングが低いデータばかり示されているのだ。

「これはインタビューなのか? それとも違う目的なのか?」

フィッカデンティ監督は眉間にしわを寄せながら、両手を広げた。

イタリアサッカーの美学

ただ、言うまでもなく、これはFC東京の強さをポジティブに捉えるための企画だ。その意図を丁寧に伝えると、監督の表情が少し緩んだ。

「私たちは1点差の勝利が多い。それは選手たちのチームスピリット、堅い守備のおかげだ。そして何より、両陣地を行ったり来たりするオープンな試合を好まないことが大きい。中には打ち合いを好む人もいるかもしれないが、それはイタリアではありえないサッカーだ」

フィッカデンティ監督は、日ごろから感じている日本サッカーの問題を指摘し始めた。

「Jリーグの試合でよく見られるのは、後半にどちらかが1点を決めると、そのままオープンな展開になるということだ。もしくは1点先に取られると、まだ時間があるのにすぐに取り返しに行こうとしてしまう。イタリア的な考えでは、試合というのは一つひとつ積み上げていきながら、試合のバランスの変化を注意深く観察し、訪れたチャンスをしっかりとゴールにつなげる。1点取った1秒後に、すぐに失点するのはサッカーではない」

シュート数の少なさについても持論を示した。

「遠くから無理にシュートを打っても、可能性はゼロだ。シュートは打てばいいというものではない。確率が低いシュートを何本打っても無駄だ。無闇にクロスを放り込むチームもあるが、私の考えは違う。サッカーというのは、無駄を省いて最後に残るのが順位表なんだよ」

元日本代表MFの見解

このイタリア哲学は、選手たちにもしっかりと浸透していた。東京学芸大学卒で「高秀先生」と呼ばれる理論派、元日本代表MFの高橋秀人はこう説明する。

「一言で言えば、リスクを冒すことを好まない監督です。たとえば練習でも、人が集まっているゾーンには攻撃をあまり仕掛けない。そこを崩せばビッグチャンスになりますが、ボールを取られる危険が高いからです。練習のときからそれが体に染み付いているので、試合でオープンな展開にはならない」

高橋の口からも、やはり得点・失点の直後の振る舞いの話が出てきた。

「日本のスタジアムだと、点を取られたら『すぐに取り返せ』という雰囲気になるじゃないですか。でも監督からしたら、それはありえないと。逆にゴールを決めた後にイケイケになったらいけない。僕もその点を学ばせてもらいました」

FC東京の強さを示すデータ

取材後、データスタジアムの滝川有伸アナリストにインタビュー内容を伝えると、すぐにそれを補足するデータを集めてくれた。

それは「ボールを奪われたあとにシュートを打たれてしまった割合」。

FC東京の場合、ボールを失ってから10秒以内にシュートを打たれた回数は、鹿島に次いで少なかった(鹿島が15本、FC東京が17本)。

さらにそれが失点につながったかを見ると、失ってから10秒以内のシュートで鹿島が4失点しているのに対して、FC東京は1失点しかしていなかった。

失ってから10秒以内で打たれるシーンが少なく、かつそのかたちからほぼ失点しない。まさに「オープンな展開を好まない」サッカーだ。

日本サッカーはスペインサッカーへの憧憬(しょうけい)が強く、派手な打ち合いを許容する路線をこれからも進んでいくだろう。個人的にも賛成だ。ただし日本が世界の強国になるために、イタリアサッカーから学ぶべきこともたくさんある。

FC東京の非常識な躍進が、日本サッカーに足りないものをあぶり出していくだろう。

データ提供:データスタジアム

データスタジアムは、2001年の設立以来、Jリーグ・プロ野球・ラグビートップリーグなどのデータを取得・蓄積・分析し、スポーツ団体やチーム・クラブ・選手に対して強化や戦術向上のためのソリューションを提供しています。また、ファンやメディアに対してさまざまなデータやデータを活用・応用したエンターテインメントコンテンツも提供し、スポーツの新しい楽しみ方を提案しています。
Jリーグトラッキングシステムは、データスタジアム・Jリーグ・Jリーグメディアプロモーションらが協働し今シーズンのJ1のリーグ戦に導入しています。
http://www.datastadium.co.jp

(文:木崎伸也、スライド:櫻田潤、データ分析:滝川有伸〈データスタジアム〉)