会社の閉塞感はこうして生まれる!同調圧力が強い会社が多い理由
私は現在、立命館大学経営大学院の客員教授として「異文化マネジメント」という講義を担当しています。
そのなかで、日本企業では「多様な人を採用しても、会社の雰囲気と合わなくてすぐ辞めてしまう」という問題、そして「中途採用した人が、すぐ組織に馴染んでしまって新たなことをしなくなる」という逆の問題も同時に起こっている、という話をします。
これは「多様な人を採用しているからといって、多様性を武器にできているとは限らない」ということを意味しています。
今回は、多様性が武器になる会社とそうではない会社の違い、そしてみなさんが転職や異動などで組織を見定めるポイントについて解説します。
◇「組織カルチャー」と「多様性」の関係性
「多様性が必要だ」と言われるようになってから10年以上が経ちますが、日本企業における多様性はまだまだ進んでいません。世界経済フォーラムが調査しているジェンダーギャップ指数では「2015年 101位/145カ国」、「2022年 116位/146カ国」と、むしろ後退している状況です。なぜなのでしょうか。
私はグローバル企業で上司も部下も多国籍という環境のなか、マネジメントとして長く過ごしてきました。M&Aを行った企業の社員と組織が統合されることも多くあり、まさに多国籍で、多様な人々が入り乱れる職場環境でした。
その後、歴史ある日本の製造業に移りましたが、今度は海外企業から突然やってきた人事役員として、自分自身が「異分子」となり、社員や部下に受け入れてもらいながら、新しい風を持ち込むという立場でもありました。
こういったマイノリティ経験を通じて感じることは、「組織カルチャー」の存在が多様性には大きく関与している、ということです。
組織カルチャーとは、組織内の人々が暗黙的に「これが良い(悪い)こと」と認識している言動のこと。お互いの動きや考えを予測しながら動けて、まさに「空気を読む」という状態が醸成されるので、効率的に働くことができますし、現場の判断も速くなります。
だからこそ多くの企業は組織カルチャーを作ろう、浸透させよう、と懸命に努力しますが、一方で、組織カルチャーは、「多様性を排除するほうに作用していく」という特徴があります。
組織カルチャーが強く根づく組織に異分子となる人が入ってきて、予測できない言動を繰り返すと、多くの人は効率性が失われていくマイナス部分をより強く感じることになります。そうすると、意識していなくても異分子を排除する方向に人々の考えが向いていくのです。
◇組織カルチャーには良い面も多い
私は、スタートアップ企業を人事顧問として何社かサポートしています。その際、私が最初に取り組むことは、まず組織カルチャーをつくることです。
スタートアップはとにかくスピードが重要です。事業の成長に必要な人材をどんどん採用していきますが、皆が一致団結して、同じ方向を向いて働けることがとても大切であり、考え方の違いについて話し合っている時間はありません。
そこで組織カルチャーを意図的につくり、そのカルチャーに合う人を採用していくことで、人が辞めない企業をつくりあげていきます。つまり、「同質性」を意図的に高めるのです。
組織カルチャーがもたらす同質性は、組織が立ち上がっていくフェーズや、安定的に成長しているフェーズにおいては重要な武器になります。一方で、いまの多くの大企業は、新たなビジネスを生み出す必要があります。だからこそ多様性が必要と言われるわけですが、それであれば、これまで根づいてきた組織カルチャーを変えていかないと、新たな人材が入ってきてもなかなか活躍できない場合が多いのです。
◇組織の同調性バイアスは世界中にある
前述した「同質性」の根本にある心理的な事象を「同調性バイアス」と言います。
同調性バイアスとは、他者と同じ意見や行動に傾きやすい心理的な傾向のこと。自己肯定感や所属意識を高める一方で、客観的な判断や新たなアイデアを取り入れることを妨げる面もあります。
このバイアスが集団として働いたときに、集団の中で少数意見を持つ人に対して、多数意見に合わせるように暗黙のうちにプレッシャーをかける、すなわち同調圧力につながるのです。
日本は調和を重んじる文化でもあるので、「同調圧力は日本人特有の現象」と思われがちです。しかし、仲間から感じる暗黙的なプレッシャーは世界中に存在します。
たとえば、国立青少年教育振興機構が、日本、アメリカ、中国、韓国の高校生を対象に実施した「高校生の心と体の健康に関する意識調査」によると、「友だちに合わせていないと心配になる」という項目では、アメリカがトップの55.4%で、日本は35.5%(中国:31.9%、韓国:25.1%)。日本人だけがとりわけ強く同調圧力を感じているわけではないことがわかります。
◇日本企業が多様性を活かす方法
同調圧力を下げていくための方法はいくつかありますが、とくに海外企業がよく行うのが「組織の流動性を上げる」という方法です。同調圧力は、組織に所属する人々が固定化することによって強まるため、人と組織を積極的に動かすことによって同調圧力をコントロールしていきます。
流動性といっても、採用や退職とは限らず、組織変更、役割変更、人事異動、転勤、出向、転籍、または社外からの業務委託や副業者の受け入れなど、さまざまあります。
もちろん、組織や人を動かしすぎることは、安定性が失われて業務効率性が下がったり、社員が不安に感じたりする側面もあります。また、社員のキャリアも考えなければなりません。しかし、それを恐れて組織や人を長く固定化していれば、同調圧力は気づかないうちに組織のなかにはびこっていきます。
グローバル企業では、毎年のように組織や役割が大きく変わります。私は人事に関わる人間としてかなり専門的なキャリアを歩んでいますが、それでもSAP在籍時は、マーケティング、営業などさまざまな職務を担当しました。また、組織も毎年のように変わりました。
ストレスを感じるときも多くありましたが、それでも人や組織を動かしていくと、新たな人材や環境を活かすことが当たり前の価値観として根づき、多様性は企業にとって武器となっていきます。
もしみなさんが、これから転職をしようと考えた場合には、気になる企業の人事異動や組織変更の頻度を確認するのがおすすめです。特に、役員レベルで新たな人材の採用が多く見られる企業からは、「多様な人材を本気で活用しようとしている」職場環境が想像できます。
Top画像@Linustock
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注目のコメント
同じ部署に長くいる人は、本人が私の意見が絶対みたいな変なプライドを持つ「お局さん」になりがちです。
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他人の斬新なアイデアは認めません。
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後から加わった人に注意されても、直せません。
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アイデアは認められないし、ダメな所を直さないのでまわりは距離を置きます。
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さらに面倒なので、「お局さん」の言った事をやるだけの作業員になります。
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当然、「お局さん」ひとりでは大きな仕事をできません。
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「お局さん」はなにも仕事が動かない言い訳を、言われた事しかやらない作業員化したまわりの批判に責任転嫁します。
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これが閉塞感と同調圧力の原因例のひとつです。原因は良くも悪くもいつも立場が上の人の行動で決まります。企業カルチャーは、組織を一体化する素晴らしい武器ですが、同質性を高める機能も併せ持ち、だからこそ重要視される経営戦略となります。
一方で、人材が多様化するなかでは、カルチャーの強さが足枷になってしまうこともあります。
企業のカルチャーと多様性を武器にすることを両立する方法を解説しました。
転職の際の企業研究にもぜひ参考にして頂ければと思います。>「多様な人を採用しても、会社の雰囲気と合わなくてすぐ辞めてしまう」という問題、そして「中途採用した人が、すぐ組織に馴染んでしまって新たなことをしなくなる」という逆の問題
前者はわかりますが、後者の問題もあるのだなあ、というのは発見でした。組織の流動性を高めて、自組織が常に変化に慣れておくというのも、なるほどと思いましたし、それは採用のみならず、異動や出向というものでも担保されるのだなというのもまた、確かに...と。今日からでも意識したいですね、チームに新しい血をいれる努力。