2024/6/19
投資総額100億円。急成長「コープさっぽろ」の物流戦略とは
広大な北海道で消費者の生活と密接につながり、小売業界で大きな存在感を示しているのが生活協同組合コープさっぽろです。
「北海道の食のインフラ」と自らを位置づけるコープさっぽろの先進的な取り組みを象徴するのが、物流戦略です。
2024年問題に揺れる物流業界の中で、なぜ日本中から注目される先端的な物流の仕組みを構築できたのか。その戦略と成果を探ります(第1回/全3回)。
「北海道の食のインフラ」と自らを位置づけるコープさっぽろの先進的な取り組みを象徴するのが、物流戦略です。
2024年問題に揺れる物流業界の中で、なぜ日本中から注目される先端的な物流の仕組みを構築できたのか。その戦略と成果を探ります(第1回/全3回)。
INDEX
- 紙の伝票を電子化で統一。33億円の効果も期待
- 1日あたりトラック29台減を実現した配送システム
- 宅配事業のため、8億円のシステム導入を即断
- グループ会社も「自走力」で稼ぐ道を模索
- 新たな取り組みを続々と導入した「フローズンセンター」
- まだまだ伸びしろのある宅配事業
紙の伝票を電子化で統一。33億円の効果も期待
北海道の世帯数の8割にあたる200万人以上の組合員(世帯加入)を抱えるのが、北海道のスーパー・宅配事業最大手の生活協同組合コープさっぽろです。
独自性にあふれたさまざまな施策が行われる中でも、その先進性を最も象徴しているのが物流戦略だといえるでしょう。
コープさっぽろの物流を一手に手がけているのが、グループ企業の北海道ロジサービスです。北海道江別市にある敷地6.6haの広大な物流センターから、全道に向けて荷物を配送。取引先はコープさっぽろが67%を占め、それ以外に400社ほどと取引をしています。
北海道ロジサービスではコロナ禍前からいち早く2024年問題にも取り組み、徹底的な効率化を推進。この2年間で物流業界を代表する3つの賞を受賞するなど、大きな注目を集めています。
「ロジスティクス大賞」(2022年度)では、日本で初めて導入した納品伝票のペーパーレス化が受賞の対象となりました。
紙の納品書は会社ごとにフォーマットも違い、ドライバーや事務作業員にとってその管理は大きな負担です。
そこでITシステム会社TUNAGUTEと共同で開発したクラウド型共通システムを導入し規格を統一。電子化することで「製・配・販」すべてのステークホルダーが簡単に情報を連携し可視化できるようになりました。
この施策を始め、北海道ロジサービスの物流戦略の責任者として指揮を執るのが、同社専務取締役の高橋徹さんです。
高橋「ペーパーレス化はベンダーやメーカー、約400社と一緒に取り組むことで実現したものです。400社の同意を得るために、『将来的にこれがスタンダードになります』と一社一社を説得して回り、2年ほどかけてようやくかたちにできました」
物流伝票のペーパーレス化は他社でも導入が広がっており、この仕組みが日本全体で普及すれば、約3533億円の効果があると、TSUNAGUTEは試算しています。
1日あたりトラック29台減を実現した配送システム
「第24回物流環境大賞」(2023年度)の「低炭素物流推進賞」、「令和5年度物流パートナーシップ優良事業者表彰」の「物流構造改革表彰」を受賞したのは、商品をカテゴリー集約で配送することにより効率化した取り組みです。
他企業との共同配送を導入し、配車の統合、拠点の共同化も実現。2019〜2022年の4年間で、1日あたり29台のトラックを削減、関係車両全体のCO2排出量を約10%減、トラックドライバーの拘束時間は年間5万4000時間減らすことができました。
この施策は物流の2024年問題解決に直結するものです。2019年から随時取り組みをスタートし、コロナ禍で物流量が膨れ上がったことでスピードアップして実現を進めてきました。
高橋「初年度の2019年度に取り組んだのは、出荷の集約です。これまでは常温品、低温品、日配、デイリー品などを低い積載率で運んでいる便もありました。それを徹底的に分析してカテゴリーを集約し、1台のトラックが運べるようにしました。
さらに、出荷の荷物を下ろした後は、センターに入荷する荷物を他社の分も含めてまとめて運ぶ仕組みの構築を強化。帰りに空の状態のトラックが走ることがなくなり、行きも帰りも荷物を運ぶようにしてトラックの配車効率を最適化しています」
この仕組みを実現するには、小売りの物流にあるこまごまとした制約をいかにクリアするかが鍵でした。
決まった時間に何トン車でないと入れないなど、店ごとにケース・バイ・ケースである細かい制約条件。それらの条件をクリアするために、人の知恵や作業を取り入れながら何度も調整を繰り返してきました。
高橋「現在、AI配車システムでの実証実験も進行中ですが、AIだけではなかなかすべてを解決できないのが実情です。細かいパズルを組み合わせていく中で、個別対応しなくてはいけない部分はまだまだありますね」
宅配事業のため、8億円のシステム導入を即断
北海道ロジサービスの物流戦略が最初に話題になったのは、2018年に導入した自動倉庫型ピッキングシステム「オートストア」でした。ノルウェー製のこの機械システムは、同じく本社が北海道にあるニトリが日本で初めて導入したものです。
それを知ったコープさっぽろ理事長の大見英明氏はすぐにノルウェーへ飛び、現地で交渉。その場で導入を決めたといいます。1台250万円の機械を70台導入し、システム開発費込みで8億円が投入されました。
コープさっぽろでは宅配事業に注力を始めていたこともあり、「ライバルはAmazon」(大見氏)という掛け声とともに、宅配事業のインフラ整備は最重要課題だったのです。
実際、オートストアを導入したことで、宅配事業の取扱品目はそれまでの9500点から現在の約2万5000点まで増加させることができました。
高橋「ニトリに比べて我々のようなスーパーマーケット事業においては、100円ほどの商品も多く、購入頻度も高いという点が大きく違いました。その分、どうしても条件が難しくなる部分がありましたが、システムをカスタマイズすることで導入を実現。
システム開発では数々のハードルがありましたが、外注ではなくコープさっぽろの自前のシステム部がそのほとんどを開発することで、ニーズに合ったものをつくることができました」
取扱品目数を大幅に増やせただけでなく、たまにしか売れない「低頻度」の商品の取り扱いも効率化。スペース、作業人員ともに3分の1まで減らすことができました。
高橋「このような自動倉庫型ピッキングシステムは、自動走行による定点ピックの一種ともいえます。そう考えると、このようなシステム自体はそれほど目新しくはないのですが、小売業者が宅配事業向けに導入したという点で、世間から画期的な施策と受け止められました」
グループ会社も「自走力」で稼ぐ道を模索
このような改革を次々と実現できた背景にあるのは、親会社にあたるコープさっぽろが物流戦略を最重要課題と見ていること、そしてグループ企業には「自走力」を求められることがあげられます。
高橋「例えば運送会社が値上げをするとなったときに、その分をそのまま商品価格に上乗せして値上げさせてくださいというのはなかなか通りにくいです。そうすると、自分たちでどんどん改善して効率化していくしかないのです。
日頃からそういう考え方が徹底されている、というのは大きいですね。
実際、弊社だけでも細かいものを含めて、現場から年間100事例ほど改善事例があがります。こういった細かい改善を積み上げていくことが、大きな改革へとつながっていく。それは全社員のマインドとしてしっかり共有されています」
新たな取り組みを続々と導入した「フローズンセンター」
この10年の間、加速度的に物流改革を実現してきた北海道ロジサービスですが、その歩みはさらに続いています。
江別市にある物流センターでは、冷凍商品の物流拠点として「フローズンセンター」が2024年6月から本格稼働。これをきっかけにコープさっぽろの宅配事業では、冷凍商品の取扱品目を増やし、販売構成比率のアップを目指します。
このフローズンセンターでは、新たな取り組みを続々と導入しています。
プロジェクションマッピングの仕組みを応用した「プロジェクション・ピッキングシステム」では、プロジェクターとセンサーを組み合わせて、作業員が瞬時に音や光で判断。ピッキング作業の効率化や品質の向上を図ります。
高橋「このプロジェクション・ピッキングシステムはまだメーカーと開発調整段階ですが、物流業界で大きくこのような仕組みを使うところはうちが初めてでしょう」
このほかにも高速で商品の入出庫を行える「シャトルラック」、冷凍商品を入れるジェットシッパーの組み立てロボットの導入。
さらにはトラックに積むカゴに出荷商品を入れる作業を行う日本初の半自動積み付け機器をメーカーと共同開発したり、日によって凸凹がある出入荷をコントロールして標準化するシステムの実証実験などを行ったりしています。
高橋「江別の物流センターでは、冷凍商品を入れる折りたたみジェットシッパーを1日8000個も組み立てています。
これまでは複数の作業員が専任で1日中手動で組み立てていましたが、専用ロボットの開発により労力も時間も効率化。サポート要員が1人いるだけでよくなりました。
出入荷の標準化は、物流だけでなく店舗にとっても人的・時間的な効率がアップするので、メリットはかなり大きくなります」
まだまだ伸びしろのある宅配事業
このフローズンセンターには47億円、さらに常温商品の工程にも60億円を投資するなど、現在、総額100億円以上の資金を投入して物流センターを強化しています。
高橋「コロナ禍直前の2019年に物流拠点への大型投資を決断し、そこからはとにかくスピード重視でここまできました。これだけの資金を投入する目的は、宅配事業をより一層成長させるためです。
宅配事業は右肩上がりで伸びており、全国の生協と比べてもコープさっぽろにはまだまだ伸びしろがあります。数年前に比べてすでに1.5倍の物量を取り扱っており、さらなる宅配事業の成長を見越すと、物流拠点のパワーアップは不可欠です」
そのスピード感、施策のバリエーションの多さを引き出す原動力は、コープさっぽろの強力なリーダーシップ、そして課題解決への強い思いがあります。
高橋「我々には北海道を扱う物流インフラという『社会的使命』への自負があります。
その思いを胸に、コープさっぽろと長年積み上げてきた『改善の文化』を生かしながら、それ以外の取引先も巻き込んで大胆に物流改革を実践してきました。何よりも重要なのは、課題解決を常に模索することとスピード感です」
北海道ロジサービスでは物流の2024年問題は、すでに先取り解決済みと胸を張る高橋さん。道民の生活を支える効率的な物流網の確立を目指し、さらなるチャレンジへの熱意とスピード感はますます加速していきそうです。
そして、そんなグループ企業の勢いを牽引するのがコープさっぽろのカリスマリーダー、大見理事長です。次回は、コープさっぽろの躍進の理由について伺っていきます。(第2回に続く)
そして、そんなグループ企業の勢いを牽引するのがコープさっぽろのカリスマリーダー、大見理事長です。次回は、コープさっぽろの躍進の理由について伺っていきます。(第2回に続く)
構成・取材・文:久遠秋生
撮影: 新津隆將
図版作成:WATARIGRAPHIC
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
撮影: 新津隆將
図版作成:WATARIGRAPHIC
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
コープさっぽろの挑戦 小売りから生活インフラまで