american_sports_bnr

第1回:米国大学スポーツ人気の理由

動くカネは数千億円。巨大な米国カレッジスポーツの世界

2015/6/12
世界最大のスポーツ大国であるアメリカは、収益、人気、ビジネスモデル、トレーニング理論など、スポーツにまつわるあらゆる領域で最先端を走っている。メジャーリーグやNBA、NFL、NHLという四大スポーツを人気沸騰させているだけでなく、近年はメジャーリーグサッカー(MLS)でもJリーグを上回る規模で成功を収めているほどだ。なぜ、アメリカはいつも秀逸なモデルや理論を生み出してくるのか。日米のスポーツ事情に精通するライター・永塚和志による新連載の第1回は、米国で大人気のカレッジスポーツについて。

日本でアマチュアスポーツと言えば、春夏の全国高校野球大会、いわゆる「甲子園」が最たるものとして思い浮かぶだろう。しかし、視線をスポーツ大国アメリカに向けてみると、同じアマチュアでもそのスケールは格段に大きくなる。それはもう甲子園の比ではない。

アメリカの場合、アマチュアの最高峰はカレッジ、つまり大学スポーツとなる。とりわけ人気の高いのが、アメリカンフットボールと男子のバスケットボールだ。その盛り上がりと取り巻くビジネスから生み出されるカネの額は、プロに比肩するほどである。

たとえば、世界で1試合あたりの平均観客動員数を最も多く誇るプロスポーツリーグはプロフットボール=NFLの約6万8000人で、2位はドイツサッカーリーグ・ブンデスリーガの4万3000人となっている(米ビジネスサイト「Business Insider」調べ)。

ところが、プロという枠を外すと話は変わってくる。一部のメジャー校に限られるという前提付きながら、アメリカのカレッジフットボールにおけるトップ校の観客数は、NFLのそれを上回るのだ。2014年シーズンでは21校が、ホームゲーム平均観客数でNFLの平均以上の数字を挙げている。平均で10万人を集めた大学は6校もあった。

余談ながら、世界の収容観客人数の多いスタジアムランキングトップ10のうち、7カ所はカレッジフットボールのスタジアムである(NFLですら10万人以上を収容できるスタジアムはひとつしかない)。

人気大学はNBA以上の観客動員数

男子バスケットボールにしても、1部校で平均観客数が1万5000人を超えた大学は、昨季16校、1万人を超えたのは41校もあった。1位のシラキュース大学は2万6253人を記録している。

ちなみに、NBAの2014ー2015年シーズンの平均は、1万7826人だ。アメリカンフットボールに比べると総じて人気は落ちるが、それでも毎年3〜4月にかけての全米トーナメント(NCAAトーナメント)は一大イベントで、高いテレビ視聴率を記録する(バスケットボール好きのバラク・オバマ大統領が番組でトーナメント予想を立てるほど)。

なぜ、カレッジのフットボールと男子バスケットボールは人気が高いのか。2つともアメリカ発祥の競技で、競技レベルが高いとは言える。だが、であればプロのNFLやNBAを見れば良いではないか、ということになる。

しかしながら、アメリカの国土は広い。北米のメジャープロスポーツはどれも30以上の球団数を持つが、国土が広いばかりに身近にメジャープロチームのない土地が多いのだ。

その点、大学はプロチームのない場所にもある。フットボールなら1部所属校だけでも128、男子バスケは同351(ともに2014年の数字)も存在する。

平易な言い方をすれば、どんな“田舎”にもチームはあり、“おらが町”の代表としてそれぞれの大学の学生や職員のみならず、地域住民にも愛されるのだ(カレッジとは比較できないが、同様の理由で高校スポーツを応援する市民も少なからずいる)。

アメリカ南部地域における高いカレッジフットボール人気などは、その顕著な例と言える。同地域は、アメリカでは“地方”の代表的エリアと言えるかもしれない。住民の所得も比較的低い同地域には、大きなマーケットが少なく、おのずとプロチームの数がエリアの広さの割には少数になる。

カレッジフットボールはNBAを上回る人気

しかし、カレッジフットボール最強リーグのサウスイースタン・カンファレンス(SEC)を中心とした全米屈指の強豪校のほとんどがこの地域にあり、ファンはプロのNFLよりもむしろ、身近なカレッジチームを応援する者も多い。実力も高く、過去10年の全米優勝チームのうち7つがこのカンファレンスから出ている。

カレッジフットボールのファンベースを見ても、全体の約4割が南部にいるとされる。テキサスを含めた南部地域(南部の定義はあいまいだが)の人口は約1億1000万人。人口3億人強の同国で3分の1の数字だから、その中でファンが4割いるということは、割合としてはやはり高い。

世界最大のスポーツ市場調査会社・レピュコムが今春出したアメリカのカレッジスポーツに関する資料(「U.S. College Sports」)によれば、カレッジフットボールのファンベースは約1億4350万人で、NFL(約1億6930万人)、MLB(約1億4760万人)に次ぐ3番目にファンの多い競技となっている。カレッジバスケットボールは5番目の1億2600万人だ。

アメリカの市場調査会社、ハリスがほぼ毎年行っている「最も好きなスポーツ」の世論調査(ひとつを選択する方式)を見ても、最新の2013年の結果ではプロフットボール(NFL、35%)、プロベースボール(MLB、14%)の次に、カレッジフットボール(11%)が入っており、プロバスケットボール(NBA、6%)やプロアイスホッケー(NHL、5%)をしのぐ人気があることを示している(男子カレッジバスケットボールは3%だが1989年には10%を記録している)。

ちなみに、トップ3の並びはこの30年間変わっていない。いずれにしても、アマチュアスポーツのカレッジスポーツにこれだけのファンがいるというのは世界的に見て相当に稀有だと言えるだろう。

2015年1月、8万人収容のAT&Tスタジアムでオハイオ州立大学とオレゴン大学がカレッジフットボール全米王座決定戦で対戦(Pool/getty images)

2015年1月、8万人収容のAT&Tスタジアムでオハイオ州立大学とオレゴン大学がカレッジフットボール全米王座決定戦で対戦(Pool/getty images)

人気があるから、カネが集まる

驚かされるのは、ファンの多さとそこから生まれる盛り上がりだけにとどまらないことだ。21世紀に入ってからなおさら顕著となっているが、今や同国カレッジフットボールとバスケットボールは、完全に多額のカネを生み出す一大産業と化していることにも触れないわけにはいかない。

アメリカの大学スポーツを統括するNCAAの収益はほぼ10億ドル(約1200億円)に達している。これは日本のプロ野球のそれと大差のない数字だ。

しかし、このNCAAの10億ドルですらも「たかが知れた」金額でしかない。上記したSECを含め、アメリカのカレッジには五大メジャーカンファレンスというものが存在し、多くの強豪校が所属している。

当然ファンはハイレベルなチームによる試合を見たいわけだか、メジャーカンファレンスの価値は上がり、多額のテレビ放映権料やスポンサーマネーが彼らの懐に入ってくるのだ。テレビ放映権料はとりわけ大きなウエイトを占めており、動くカネの単位は円にすれば数百億円から数千億円にもなる。

アメリカのカレッジスポーツのすごさは、実はビジネス面の規模の大きさにあると言えるかもしれない。次回はそうしたアマチュアながらプロ並、あるいは時としてプロ以上のカネが動く側面を紹介したい。

*本連載は隔週金曜日に掲載予定です。