2024/6/15
日々出会いがあって人脈過多。ご縁を生かすも殺すも自分次第
江戸時代から続く歴史があり、人間力や教養が高まるとビジネスリーダーから好まれている落語。その特性とビジネススキルを掛け合わせ、落語を聴くようにすんなり理解できる連載「落語家に学ぶ仕事のヒント」。
シリーズ4回目に登場するのは、錦笑亭満堂さん。後編では、大御所である師匠や著名人、お客さんなど、たくさんの人たちから応援されている満堂さんの「人付き合いの哲学」に迫ります。
シリーズ4回目に登場するのは、錦笑亭満堂さん。後編では、大御所である師匠や著名人、お客さんなど、たくさんの人たちから応援されている満堂さんの「人付き合いの哲学」に迫ります。
INDEX
- マメな気遣いが結果的に人脈を築いた
- 良い縁を得るには、自分に正直でいること
- 「毒舌」と「空気を読む」は芸人の特殊技能
- やっぱり、相手への愛がないとダメ
マメな気遣いが結果的に人脈を築いた
僕は本当に多くの人から支えてもらっています。僕が甘えるからでしょうけど、普段からマメであることは大切にしていますね。
昨日もとあるお金持ちの方と飲みに行って、誕生日プレゼントにどでかいパネルをお渡ししました。
何をプレゼントしよう……と悩んだ末に、「〇〇さん専用無料券」という文字とお店の写真を印刷したパネルを作りました。その方に「大阪の『豚足のかどや』でいつかおごります」と以前から言っていたので。
「いや、デケえよ」とうれしそうにしてくれたので、ガッツポーズしましたね。
そうやってみんながやらないことを少し汗かいてやる。誕生日や新年のあいさつなどの連絡をするのはもちろん、ごちそうになった翌朝に菓子折りを持ってお礼に行くこともあります。人からは「一流のホステスさんになれる」なんて言われますね。
弟弟子からは「すぐモテようとして」って言われるけど、僕は人に喜んでもらうのが好きなんですよ。もともとお酒飲んで人と話すのが好きだし、その空間を盛り上げて、みんなが笑顔でいられるといいなって思う。
まぁ、モテたいって下心もないわけじゃないけど、本当にやりたいからやってるんです。楽しくやっているから苦にもならない。
そうやって「相手を喜ばせたい」と思っていろいろやっていたら、結果として人脈過多なくらい人とのつながりができました。あんまり覚えてないけど、昨日も最終的には知らない人と飲み屋でババ抜きしてましたね。
今度、また大きなパーティーをやるんです。真打昇進のお披露目会「満堂フェスin日本武道館」に続き、出版記念パーティーを。
「政治家の資金集めパーティーかよ」なんて言いながらも多くの方に来ていただけるのは、これまでマメに縁をつないできたからかなと思います。
偉そうですけど、縁って自分からつなぎ留めようとしなければ切れちゃうんですよ。「誕生日おめでとう」「元気?」っていうちょっとした声かけが縁をつなげる。
人間関係を築くには、ちょっとした勇気が必要なんですよ。
ナンパばっかりしてる友達は、「ナンパはノーリスク、ハイリターン」と言っていて。声をかけても無視されるのが普通だから、自分が平気ならノーリスクだって言うんです。
すげえなって思うと同時に、確かになと思いました。仲良くしたいとか、話したい気持ちがあるのに、「私なんか」ってやめちゃうのは保身。そこはちょっと勇気を出してもいいんじゃないですかね。
良い縁を得るには、自分に正直でいること
ただ、やりたくないことはしない方がいいと思います。嫌なことをしたって「無理してんな」ってすぐバレますからね。面白がってやれるぐらいがちょうどいい。
例えば、僕はお歳暮やお中元はなるべく贈らないようにしています。一度贈ったら一生贈り続けなきゃいけないと思うから、どこかでできなくなる自分が怖い。だからやらない。
他にも、落語家はお礼の手紙を書く人が多いけど、僕は字が汚いから書きたくない。だからやらない。その代わりお礼の電話は必ずします。電話は大好きだから、手紙の代わりに言葉で伝える。
もちろん最低限のルールはあって、そこは守りますよ。でないと、ただのわがままになっちゃうからね。
僕の場合だったら、師匠に迷惑をかけることはしない。師匠が悲しむこともしない。師匠の顔を立てるし、嫌いな人でも師匠のお客さんならきちんと接する。
でも、最低限のこと以上はやらない。時には無理しなきゃいけないこともあるし、嫌な仕事だってあるけど、極力自分にうそをつかないようにした方が楽ですよ。飲み会に参加したくない人は「参加しないキャラ」で通せばいいんだから。
その結果、返って仲良くなれる人もいれば、縁が切れる人もいるだろうけど、それはもうしょうがない。また縁があったらいつかつながるでしょうしね。
自分を卑下したところで始まらないし、なるべく堂々としてりゃいい。中途半端なことをするよりも、自分に正直な人の方が最終的には周りから好かれてるなと思いますよ。
そういう意味では、自分に合う場所に身を置くのも大事だと思います。場所が変わったら付き合う人も変わって、新しいご縁があったり、過去の人間関係が良くなったりもする。
周りの人は自分を写す鏡。
「今この人が相手をしてくれてるってことは、自分は結構良い感じなんだな」「こういう人が寄ってくるってことは、嫌なオーラが出てるかも」って、周りの人をリトマス試験紙みたいにして、自分の状況を測るといいんじゃないでしょうか。
何より、その時々の自分に正直に生きないと早く老けちゃいそうじゃないですか。長生きしてる人って我慢しない人ばっかりだし、やっぱり無理しないほうがいいですよ。
「毒舌」と「空気を読む」は芸人の特殊技能
他に人間関係で心がけているのは、相手が嫌がることは言わない、でしょうか。シンプルでしょ?
ただ、嫌なことを言わないのと、毒舌は紙一重です。大前提、毒を吐くとか、いじるとか、高度なスキルなんですよ。だから我々の仕事が成り立っているわけで。
僕が先日出した本のタイトルなんて、『ウチの師匠がつまらない』ですからね。出版社の方から提案してもらったタイトルですけど、あの優しい師匠がタイトルを見て笑わなかったんです。なんならムッとしていて。
それを見て「やっぱこのタイトルはいいぞ」と思いましたけど、これが成立するのは特殊な世界だからです。皆さんがテレビで見ている毒舌は、特殊技能を持った人たちが、いじられても大丈夫な特殊な人に対してやっていること。
よく「空気読め」って言われるけど、空気を読めるほうがおかしいんですよ。芸人は空気を読むことに特化した人の集まり。読めるから賢いとか偉いとかじゃなくて、読めるやつはヤバいやつ。
だから会社で毒舌なんて、まず失敗すると思います。関係性の浅い人に乱雑な言葉を使う人もいるけど、見ていて気になっちゃいますね。
特に、アップデートできていないおじさん。マジでしょうもないなと思うけど、我慢できないなら、せめて変なプライドは捨てたほうがいいと思います。
「ダメな人だよね〜」って若い子からいじられるくらいがちょうどいい。時々人のことはいじるくせに、自分のことはいじらせない人がいるけど、あれは最悪ですよ。
やっぱり、相手への愛がないとダメ
どこの世界でもそうだけど、結局売れてる人は謙虚だし、丁寧です。それは賢さでもあると思うんですよね。賢いから状況を見て下手に出られる。だから僕はちっぽけなプライドとか横柄さが出そうなときは、「自分が未熟なんだな」って思うようにしています。
その上で、ヤベッと思ったら「すいません!」って即謝罪。僕もいまだに失敗しますけど、やっぱり自分のキャラにないことを言うとウケないです。繰り返しになるけど、無理せず、自分に正直に生きたほうがいいなと思いますね。
そこで、ビジネスパーソンの皆さんに「紺屋高尾」という落語をおすすめします。
染物屋の職人・久蔵は、一目惚れした高尾太夫に会うために3年間一生懸命働く。正直に生き、一心不乱に頑張れば夢がかなうことがわかりやすく描かれている話です。
結局は、相手がどう思うかが一番大事。やっぱり、前提に愛がないとダメですよ。
でもまあ、アップデートしていないおじさんがいるからこそ、アップデートしたおじさんがモテるんだけどね。そうやってしょうもないおじさんをフリに使ってモテようとしているのが僕。一番悪いやつは僕って話ですね。
※本記事のタイトルバナーで使用している文字は、株式会社昭和書体の昭和寄席文字フォントを使用しています。
取材協力:池之端しのぶ亭
執筆:天野夏海
撮影:大橋友樹
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:奈良岡崇子
執筆:天野夏海
撮影:大橋友樹
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:奈良岡崇子