2024/6/8

海洋ゴミから“問い”を。広大な海を舞台に冒険は続く

ライター
海洋プラスチックゴミを集めてプラスチックのペレットや天板に加工し、販売している株式会社REMARE(リマーレ)代表の間瀬雅介さんは、最終的には「地球の7割である海を遊び場に変えたい」と語ります。

社会から必要とされなくなったゴミをエネルギーに変え、そのエネルギーを使って再び海へ冒険へと繰り出す。このプロジェクトをどのように進化させて、どこへたどり着こうとしているのか。間瀬さんの描く未来をお聞きしました(全3回/第3回)。
INDEX
  • 「カッコいい、稼げる、革新的」の3K
  • ゴミから問いをつくる
  • 地球の7割を自分の遊び場に

「カッコいい、稼げる、革新的」の3K

工場を構える拠点探しに難航しますが、ようやく三重県鳥羽市に根をおろし、漁師から集めた漁具や、企業から出る廃棄プラスチックを集めて新たな形に生まれ変わらせる「プラスチック再資源化プロジェクト」がスタート。
漁師や企業との連携が生まれ、プラスチック再資源化プロジェクトが軌道に乗ってきたREMARE。2023年には、インパクト投資ファンド「フィッシャーマンジャパン・ブルーファンド」の投資先に選ばれました。
廃プラスチックを粉砕し、ペレット状にしたもの
フィッシャーマンジャパン・ブルーファンドとは、海を守りながら利用することで経済や社会全体を持続可能にする「ブルーエコノミー」の推進を目的とし、設立されたファンドです。海洋環境の保全に特化したインパクト投資のスキームは国内初になります。
出資者の一つであるフィッシャーマン・ジャパンは、若手漁師が中心となり「カッコいい、稼げる、革新的」という新3Kを理念に掲げ、 持続可能な水産業の実現を目指す団体です。
今回の投資は、株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング代表取締役COO津田祐樹さんとの出会いから始まったことでした。
間瀬「海の抱える課題の一つである不要になった漁具の再生利用の取り組みに、津田さんが興味を持ってくれたのが始まりです。鳥羽では養殖業が盛んで、廃棄しなくてはならない漁具が必ず出るんです。
近年では地球温暖化による海水温の上昇によって漁獲量が減っているのに、産廃費用は高くなっている。それじゃあ生活できないじゃないですか」
漁具を廃棄する場合、自費で産業廃棄物として処分することになっており、これが漁師にとって大きな負担となっています。
さらにこれまで産廃プラスチックの受け入れ先だった中国からの輸入規制を受け、遠方の国へ送って処理をしなくてはならないため、費用が増加。こうした影響から不法投棄も増え、悪循環が生まれています。
間瀬「現状がわかっていても、国による対策は始まっていません。漁具の廃棄に関する規定も地域ごとに違うため、今のところ僕らが有償で買い取りするしか手がないんです。
漁具を扱ううえで、漁師だけにリスクを負わせて、自分だけがもうかればいいという発想にはならないですよね。有償買い取りをするために、自分たちで作れるものは作ってコストを下げる工夫をしています」
このような漁師をとりまく環境に焦点を当て、世界中で問題視されている海洋ゴミを資源として捉える発想が高く評価され、REMAREへの投資が決まったのです。

ゴミから問いをつくる

事業家である一方、海洋プラスチックアーティストとして表現活動を行う間瀬さん。間瀬さんが手掛けた、海洋プラスチックで作られたランプシェードやテーブル。さまざまなものからできた色が混ざり合い、一つひとつ違った模様が描かれています。
アートをつくるうえで大切な要素である、色。
黄色や紫色のゴミを見つけては、「あ! この色はレアなんですよね」とキラキラとした瞳でゴミを拾う間瀬さん。その姿はまるで宝探しをする少年のよう。ビーチクリーンは、アート活動の時間でもあるのです。
間瀬「僕はものづくりの素材として、プラスチックをリスペクトしています。プラスチックは機能的だし、経済を回すインフラとして必要な素材だと思う。
優秀な素材なのにもかかわらず、海に流れ出て、燃やされてCO2を排出してしまうことで邪魔者になってしまうという矛盾が起きている。
邪魔者扱いされた素材をもう一度経済に戻して、それが日常に溶け込んだときにすごくアートだと思うんですよね」
海洋プラスチックから時計やボールペンなどの日常使いできるプロダクトを作るのにも、理由があります。デザイン性やカッコよさで選んだものが、実は誰かが、もしくは自分が捨てたプラスチックだと気づかずに使っていたならば──。
間瀬「そこで、自分が捨てたものにお金を払っている、という矛盾が発生するわけです。僕らの作品を手に取る人が、廃棄されたものから自分たちの生活がつくられていくというその矛盾にはっと気づいたり、考えさせられたりする。
そんな問いをつくることもアート活動をする理由の一つです」
REMAREの取り組みも「僕の中ではビジネスをしているというよりもアート活動をしているという認識なんですよ」と話す間瀬さん。冒険へ出るための費用を生み出すプロセスも含めて、間瀬さんの作品なのです。

地球の7割を自分の遊び場に

航海中にフィリピン海沖で見つけたゴミの山から海洋プラスチックへの好奇心が始まり、鳥羽市に根をおろしてプラスチック再資源化プロジェクトを進めてきた間瀬さん。
現在では間瀬さんの考えに共感したデザイナーや航海士などユニークなメンバーが集まり、共にREMAREを動かしています。
止まることなく進み続ける間瀬さんの冒険。この先、どこに向かおうとしているのでしょうか。
間瀬「地球の7割は海が占めているんですよ。なのにそのうちの5%しか解明されていない。だから僕はそれを解明していく遊びをしたいんですよ。
まずは当初の目標通り、プラスチックをエネルギーに変えて、そのエネルギーを使って南極へ探検に行きます。その後は自己浮遊型の海上都市をつくりたいんですよね。
海流に流されながら海底の調査をして、海底資源から第3の新しいエネルギーの開発をする。その予定ではあるんですが、45兆円ぐらいは必要なんで……できたら非常に面白いと思うんだけど」
新しいエネルギー、そして海上都市。
とてもとても遠い話のようにも聞こえるけれど、間瀬さんの話を聞いているとそれは現実的に出来ることなのかもしれないと思えてきます。
エネルギーが足りないのなら見つけてつくればいい。ないならつくる。
シンプルだけど、きっとそれが間瀬さんがさまざまなことを現実にできた要因の一つ。
間瀬「陸で生きていると、生きるための努力をしなくても生活できてしまうんですよ。特に日本は、お金さえ払えばご飯が食べられるし、自分にスキルがなくても誰かを雇って成し遂げることができる。
そんな資本主義経済の中に居続けなきゃいけないことに、僕はあんまり楽しさを感じない。だから人間の力ではコントロールできない海に挑戦し続けていたいんですよね」
自分の家を飛び出し、海という未知の世界に出合ったときから間瀬さんの気持ちは変わっていないのかもしれません。
好奇心と探究心の向かうままに、海の向こうへ、もっと向こうへと冒険しつづけているのです。
Cavan Images / gettyimages