企業の女性支援、新たな義務化の動き
2024年5月20日。厚生労働省が女性活躍に向けて企業が公表する行動支援の項目に、生理や更年期の症状に配慮する取り組みを追加する方針との報道がされた。
そこで今回は、2024年5月17日に厚生労働省が公表した女性活躍に関する調査の報告書から、女性の健康課題にフォーカスをあてて、企業の女性支援に必要なことをお伝えする。
1.女性の健康課題に関する企業の取組状況
「健康経営」の重要性が高まる中、女性の活躍推進においても「女性の健康課題」の対応が注目されている。
女性は、生理・不妊治療・更年期など、女性ホルモンの変化もあり、ライフステージに応じてさまざまな健康課題を抱えているが、一部の課題は政府や企業が取り組んでいる。
例えば、2005年に少子高齢化が進む現状を踏まえ、次代の社会を担う子どもの健全な育成を支援するために、「次世代育成支援対策推進法(次世代法)」が施行された。
次世代法では、不妊治療と仕事の両立支援が求められているが、女性活躍推進法では健康課題への対応は明記されていない。しかし、今後は女性活躍に向けて企業が公表する行動計画の項目に、生理や更年期などの症状に配慮する取り組みが追加される方針である。
女性の健康課題は、仕事の生産性にも影響を与える重要な項目であるが、筆者が企業にヒアリングをしたところ「何の課題から取り組めばよいかわからない」という声も多く聞く。
そこで、すでに女性の健康課題に対して、取り組んでいる企業の具体的な内容を紹介する。
2.企業が実施している具体的な取組み内容
企業が実施している女性の健康課題の主なものは、①休暇制度の整備 ②サポート体制の構築 ③社員研修の実施 ④費用負担・補助の4つに大きく分類される。
具体的には、有給休暇の積立制度の導入、相談窓口窓口の設置、従業員・管理職向け研修、治療費用の補助などである。
規模別に取組み状況を見ると、いずれの課題も大企業ほど実施率が高い傾向がある。特に「生理・PMS」「不妊治療」については、大企業と中小企業の差異が大きくなっている。
さらに大企業は「休暇制度の整備」「サポート体制の構築」を重視する傾向がある。特に生理休暇の導入やオンライン診療の整備など、制度面での対応が進んでいる。
企業に在籍する従業員の年齢によって、注目している健康課題は異なり、そういった点にも考慮する必要がある。
ただし、「社員研修の実施」については、全体的に遅れている。筆者が大企業で女性の健康課題に関するオンライン研修を実施したことがあるが、生理や不妊治療などのワードが出てきたこともあり、男性から「最初に研修に参加したときは、場を間違えたかと思った」と感想をもらったことがあった。
女性の健康課題の理解を深めるためには、従業員や管理職向けの研修が不可欠であり、企業は取組みが求められている。
3.女性の健康課題に取組む影響要因
女性の健康課題への取組みを促す要因として、女性労働者の状況と、行動計画における状況把握・課題分析が影響を与えている。
女性労働者の状況では、女性の「採用」「登用」に課題を抱えつつ、「定着」が進んでいる企業ほど、健康課題への取り組みが積極的になる傾向にある。
さらに、行動計画における状況把握・課題分析の影響を受けて、女性の育成・教育訓練・評価に関する問題意識が、健康課題への取組みを促進している。
特に大企業では「女性の育成や教育訓練」「女性社員の評価」について、状況把握・課題分析を行なっているほど、多くの健康課題に関する取組みの実施率が高くなっている。
つまり、企業の行動計画策定において、自社の女性活躍に関する状況把握・課題分析をして、その課題を解決するために適切な数値目標と取組みを行うステップが必要だ。まずは自社の状況を把握することが必要である。
4.まとめ
筆者は、女性の健康課題に取組む企業、制度や仕組みを導入する企業など、さまざまな企業にヒアリングしてきた。そこで、企業が女性の健康課題に取り組むうえで、3つの重要な観点があると感じている。
【企業が「女性の健康課題」に取り組むうえで重要なこと】
①企業の課題把握(年齢層・制度面)
②従業員への理解促進(研修・啓発活動)
③経営層や管理職のリーダーシップ(コミットメント)
①企業の課題把握(年齢層・制度面など)
30代が多い企業であれば不妊治療、40代が多い企業であれば更年期など、従業員の年齢層に応じて、取組む課題は異なる。
また、従業員のニーズも、休暇制度の整備・相談窓口の設置・治療費補助など異なるため、企業の課題把握は重要である。
例えば、新卒者が多い企業であれば、2024年の傾向として、大卒新卒者のフォローがある。2024年4月に入社した大卒者は、新型コロナウイルスが流行した2020年4月に大学へ入学したため、ほぼオンラインで授業を受けてきた方も多い。よりメンタル面でのフォローが必要である。
そういった企業の課題把握を、アンケートやヒアリングで実施することが、重要な観点のひとつである。
②従業員への理解促進(研修や啓発活動)
筆者が企業で研修を実施した際、男性管理職から「自分から積極的に取りにいく情報ではないため、こういった研修を会社が実施してくれるのはありがたい」とコメントをいただいたことがある。
女性の健康課題に関する理解を深めるには、従業員や管理職向けの研修を実施することが必要だ。周囲の理解があれば、職場でのサポートもしやすい。
例えば不妊治療は、高度な治療になると、月に何度も会社を休んで治療を受けなければならないこともある。そういったことを周囲が理解していると、当事者も治療を受けやすくなる。
③経営層や管理職のリーダーシップ(コミットメント)
女性の健康課題に対する取組みは、経営層や管理職のコミットメントが不可欠だ。企業のトップが健康経営の重要性を理解するために、数字やグラフで、女性の健康課題が生産性やパフォーマンスに直結することを示していくことが必要である。
経済産業省の調査などで、女性の健康課題に対する経済損失などを数値化したものが発表されているので、そういった結果も活用しながら、経営層や管理職の理解を促していくことが必要である。
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筆者が、海外フェムテックのリサーチで最も活用しているサイト「Femtech Insider」のCEOを務めるKathrin Folkendt氏に、Femtech Community Japanリサーチャーの城口薫さんがインタビューした内容です。
フェムテックに関するジェンダー論からの批判を軸に紹介している、大変興味深い内容となっていますので、ぜひご覧ください。
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8.著者紹介
・トップ画像:GettyImages
・参考資料:厚生労働省「女性活躍に関する調査」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40278.html
コメント
注目のコメント
様々な記事を読んでいると、新たな支援や男性含め学ぶ機会が広がっていますが、現状はまだまだ。生理については少しづつ知る機会が増えていますが、女性のキャリアと更年期の問題については男性はもちろん、女性も知る機会がない部分も。
(ちょうど大きな責任を負う時期と重なる)
自分自身も勉強し、知る機会を増やせたらと思います。2024年5月20日。厚生労働省が女性活躍に向けて企業が公表する行動支援の項目に、生理や更年期の症状に配慮する取り組みを追加する方針との報道がありました。
そこで今回は、2024年5月17日に厚生労働省が公表した「女性活躍に関する調査の報告書」から、女性の健康課題にフォーカスをあてて、企業の女性支援に必要なことをお伝えします。
企業規模によって、課題や取組みが異なる点は、大変興味深かったです。
政府の取組みついてはこちら↓
https://newspicks.com/topics/femtech/posts/28