注目のベンチャー111社が集結。プロピッカーが選ぶ1社はどこだ

2016/8/31
2016年8月2日に開催された「トーマツベンチャーサミット2016」は、全国から111社もの有力ベンチャー企業が集結し、一斉にブースを出展して、大企業や官公庁、VCとの連携の可能性を探る国内最大規模のベンチャーイベントだ。この会場にNewsPicksから3人のプロピッカー(林要氏、小宮山利恵子氏、波頭亮氏)を招き、出展している11領域・111社のなかから特に注目したい1社=「1/111」を選んでもらった。はたして、どんなベンチャーが目を引いたか。

林要(GROOVE X代表)が選んだ「ブルックマンテクノロジ」

「ブルックマンテクノロジ」(http://brookmantech.com/)は2006年設立の静岡大学発半導体ベンチャー。各種カスタムイメージセンサの受託開発事業、および高性能CMOSイメージセンサの開発・販売を行う。
:ブルックマンテクノロジが開発しているCMOSセンサーは、スマートフォンやデジカメなどで動画、静止画を撮影するセンサーとしてポピュラーな部品です。同社はいち早く8Kカメラ用センサーを実用化するなど、高い技術力をもっている。
その技術を応用して「測距センサー」(物体までの距離を測定するセンサー)を開発している点が面白い。ロボット開発の「GROOVE X」を設立した私にとっては、自社のロボットに活用できないかという視点で話を聞きました。
測距センサーは、ロボット分野では障害物とロボット自身の相対位置を正確に把握するために欠かせず、複数のメーカーから提供されています。しかし、現状は広い範囲を測定しようとすると大型化せざるを得なかったり、高コストになるといった課題があります。
そうした問題を、ブルックマンテクノロジは独自のCMOSセンサー技術を測距センサーに応用することで、技術的に解決している点がイノベーティブです。詳細な説明は割愛しますが、他のセンサーに比べて、レンズを通して把握できる範囲が広い割に、原理的に小型で安価なことに優位性があります。
この測距センサーの市場は今後、自動運転車などを始め、各種ロボットで急拡大していきます。その流れに乗ることができれば、グローバル市場でも大きなシェアを握ることができる可能性があるでしょう。
林要(はやし・かなめ)
トヨタ自動車にて同社初のスーパーカー「レクサスLFA」やトヨタF1の現場で開発に従事。孫正義氏に誘われ、ソフトバンクでPepper開発リーダーを務める。2015年9月、独立のためにソフトバンクを退社し、同年11月に新世代の家庭向けロボットを実現すべく、ロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。
:同社はモジュールメーカーではないので現段階ではビジネスモデルとして汎用部品としての販売を行っていないために大量生産が難しく、価格が高いのが課題。量産時には1個1000円を大きく下回る値段で販売することもできる構成のはずで、そうなればビジネスは軌道に乗るはずです。
量産化のためのエコシステムをつくることが必要で、汎用部品として大量発注及び販売してくれるビッグクライアントをみつけることができれば、価格の問題を解決することができるでしょう。
測距センサーはロボット産業では必要不可欠な部品。1つのロボットに複数の測距センサーを搭載する時代が来るはずで、安価な測距センサーの市場が今後、大きく広がることは確実です。
ただ、残念ながら現段階で安価な測距センサーが必要なロボット市場はまだ大きくない。ロボット関連企業が増えたり、日本政府もロボット産業育成に力を入れ始めたりしていますが、産業の立ち上がりとしては、まだまだこれから。
今はロボットの商業的な成功を一つでも増やして、確実に産業として立ち上げる時期だと、個人的には痛感しています。

小宮山利恵子(リクルート次世代教育研究院院長)が選んだ「MATCHA」

「MATCHA」(http://mcha.jp/)は訪日外国人向けWebメディアを運営。9カ国語に対応し、世界210以上の国や地域からユーザーが集まる。多くの都道府県、企業との連携により、日本全国の価値ある情報を発信する“グローバル向けローカルメディア”。
小宮山:「MATCHA」は9カ国語で展開している外国人向けメディアということですが、記事を読んでみると“日本人も欲しい情報”を提供しているので、ターゲットの幅がとても広いことに感心しました。
たとえば、高速道路のSAやPAについて「どこのSAで何が買えるのか、どんなものが売れているのか」といったディープなローカル情報や、「浅草から上野まで地下鉄を使って迷わずに行く方法」「新宿駅からの脱出方法」のような現地の人しか知らない裏技感のある情報は、日本人の観光客やアクティブシニアも知りたいでしょう。
企業との連携も積極的で、東京ディズニーリゾートと連携し、日本のディズニーランドでの遊び方を説明しているのは面白いと思いました。とにかく、一つ一つの記事に「これを伝えるんだ!」という熱量を感じます。
外国人が知りたいのは、現地人である日本人が日本でどう遊んでいるのか。日本の伝統文化や食だけでなく、その場所に行く方法や、そこでの遊び方を具体的に知ることができる、「日本のリアルな今」を伝えているMATCHAのコンテンツは、外国人観光客を増やし、リピーターになってもらうために価値があると思いました。
小宮山利恵子(こみやま・りえこ)
リクルート次世代教育研究院 院長。衆議院、ベネッセコーポレーション等を経て、「スタディサプリ」を展開するリクルートマーケティングパートナーズにて教育政策を担当。財団法人International Women's Club JapanにてSTEM教育推進委員長を務める。超党派国会議員連盟「教育におけるICT利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー。
小宮山:課題としては、ひとつはコンテンツを作る人材の確保と、記事のクオリティコントロール。もうひとつはネットだけでなく、デジタル慣れしていない高齢者層にもリーチできる方法を考えると、さらに広がるはず。公共サービスや自治体と一緒に新しい価値を創造して欲しいです。
今後の成長のカギは、民間企業や公共サービス、自治体、他のスタートアップと連携してサービス展開をしていくことだと思います。どの業界とも連携できるメディアだと思うので、あらゆる団体とつながり、日本の入り口になりつつ、日本人にもリーチするコンテンツを作ると良いのではないでしょうか。
また、地方創生の視点で見ても面白いですね。例えば、地方の良い物をすくい上げて発信し、それに興味を持つ企業とつなぐというプラットフォーム的な役割も果たせるのではと思います。
2020年の東京オリンピックに向けて、「観光・インバウンド」は一大テーマになっている印象を受けました。FintechやIoTなどの領域も盛り上がっていましたが、それらの領域よりもひときわ出展が多いように見えました。期待したいです。

波頭亮(XEED代表)がベンチャーに期待すること

波頭 今回のベンチャーサミットの案内をもらって、「地方」というカテゴリーがあることに興味を持って参加しました。
私が地方創生に興味を持っているのは、地方がサバイブできるかどうか、本当に心配しているから。今回のイベントに出展しているブースを見ても、地方経済関連としてはインバウンドや観光に注目しているところはあるものの、実際のところは、観光だけではどうにもならない地方や観光事業がそぐわない地方が多いのも事実。雇用を生み出す産業を興せるかどうかがカギになる。
日本は東京への一極集中が進み過ぎ、飽和状態になっている。そろそろ東京から地方への逆流や、地方ならではの事業が起きてもいいはずだと思っている。だが、「逆流」や「地方ならでは」のビジネスモデルがまだでてきていない。
政府も地方創生を主導しているが、まったくうまくいっていない。広告代理店やコンサルタントが、自分のビジネスにつながるような、しかも既存のパターン化された事業しかやっていないことにも原因がある。「地方ならでは」のビジネスで地方が自律自走できるようになることが必要だろう。
波頭亮(はとう・りょう)
XEED代表。経営コンサルタント、経済評論家。東京大学経済学部卒業後、マッキンゼー&カンパニーを経て独立。各種審議会委員、ぴあ総合研究所所長なども務めた。
波頭:ベンチャー関連のコンテストやピッチイベントの審査員をやらせて頂くことは少なくないが、その経験から思うのは、ビジネスモデル自体に大きな差があることはほとんどない、ということだ。似たような着想、アイデアを持っている人は何人もいる。
ビジネスモデルとプロトタイプをつくることは、ベンチャーにとっては準備段階でしかない。ベンチャーが成功するかどうかを左右するのは、ビジネスモデルを具現化する段階、「実装化」のためのオペレーション能力とマーケティングだ。
発想が悪くなければ、ひとつふたつのハードルはうまく超えられる。首尾よく“実装化”に成功しても、“事業化”に行けるかどうかは、リアリティーがあり、しかもスケールの大きいビジョンを描けるかどうかがポイントだ。
単なるビジネスモデルのアイデアを良き実装化によって良きモノにできるか、そして“事業化”に成功することができるかどうかは、アイデアよりも執念と行動力にかかっている。例えば、ユーグレナの出雲充氏は500社回っても出資してもらえなくて、501社目にやっと出資してもらえた。その熱意こそが、ユーグレナが事業化できた要因だろう。
今回集まっているベンチャーは、アーリーステージが多く、実装にまでいってないので、現状では「どこが成功しそうだ」という判断まではできない。そのため、特定の1社を選ぶということはしなかった。ただ、これだけの規模で集まることは価値ある経験であり、お互いにいい刺激になるだろう。
若い人でないとコミュニティづくりはできないし、コミュニティができないと事業になってこない。地方創生の話に戻ると、地元の人のライフスタイルが変わり、その地域における生産と生活が一体化する形での事業化が必要だろう。
ライフスタイルを変えることこそがイノベーションの役割であり、ヤマトの宅急便もグーグルもアマゾンも、人々のライフスタイルを変えたから成功した。テクノロジーや若いベンチャーの知恵と工夫で、日本を大きく変えるイノベーションが起きて欲しいと、心底思っている。

日本中からベンチャーが集う祭典

有限監査法人トーマツ傘下にあり、ベンチャー支援に行っているトーマツベンチャーサポートは、毎週木曜日の朝7時から、気鋭のベンチャー数社が登壇するピッチイベント「モーニングピッチ」を、3年以上にわたって開催し続けていることで知られる。
これまでの累計開催回数は160回を超え、登壇したスタートアップは750社、参加者は延べ1万5000人にも上る。来場するのは大企業の経営層や新規事業開発担当者、または官公庁自治体やベンチャーキャピタルなどだ。
モーニングピッチは「オープンイノベーションを生み出すプラットフォームの場」として定着しつつあり、登壇したベンチャーと大企業・団体との事業提携の実績はすでに100件を超えている。
今回のトーマツベンチャーサミット2016は、そんなモーニングピッチの「年に一度の祭典」ともいえる位置づけにある。来場者でごったがえした出展スペースには、111社のベンチャーがブースを設置。大企業、官公庁自治体、VCなどから約2000人もの来場者が詰めかけるビッグイベントとなった。
出展ブースエリアでは参加者同士が自由にコミュニケーションをとれるため、各ブースのスタッフに詳しい質問を投げかける声が飛び交うほか、参加者同士で名刺交換をする姿などがあちこちで見られた
日本全国のみならず、海外にまで広がるエコシステムを構築しているトーマツベンチャーサポートは、自治体との協同による地方創生イベントや海外企業とのマッチング企画を数多く実施し、イノベーションファームとして急拡大を続けている。来年、再びベンチャーサミットが開催される時期には、さらに大きなスケールを見せてくれそうだ。
※ベンチャーサミット2016に出展した 11領域/111社の詳細はこちらから
(編集:呉 琢磨、取材・文:久川桃子、木村剛、田村朋美、撮影:下屋敷隆文)