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テック業界と昔の金融業界の意外な類似点

2013年にバンク・オブ・アメリカで過労のインターンが死亡したとき、銀行業界は激しい批判にさらされた。このときにはウォール街の過酷な労働環境が、テクノロジー業界のそれと対比された。

テクノロジー業界では、ありとあらゆる手を尽くして従業員に快適さを提供していたからだ。しかし今日では、巨大テクノロジー企業で働くことは、大手金融機関で働くことと同様に過酷であるという証拠が示されてきている。

アマゾンだけではない?

ニューヨーク・タイムズは先頃、アマゾンの企業文化についての長い暴露記事を掲載した。記事の中で、ある従業員は社員が泣き崩れることが頻繁にあると言い、別の人物は社員が「アマボット」(アマゾンのロボット)に変えられてしまうと話した。

記事によると、がんや流産など、ほかの人ほどハードに働けなくなるような問題を抱えた人たちは、評価が下がって会社から締め出されるという。

ワーク・ライフ・バランスを維持したいと考えていても、じきに深夜12時過ぎのメールにすぐに返信しなければならないことに気づく。返信しなければ、怒りのメッセージが送られてきて、返信を要求される。簡単に言うと、ニューヨーク・タイムズの記事で描かれた職場地獄を象徴するものだった。

こうした話は、アシュリー・バンス執筆によるイーロン・マスクの伝記の中にも見られる。テスラモーターズ創業者であるマスクは、ある従業員が子どもの誕生の瞬間に立ち会うために会社の行事を欠席すると、その人物を叱責したという。同書によると、マスクからのメールは次のような文章だった。

「言い訳は許されない。本当にがっかりだ。何が大事なのか、よく考えてみることだ。僕たちは世界を変えている。歴史を変えている。君はそれに関わるのか、関わらないのか、どちらかだ」

4月には、オーストラリアのアップルで働いていた元従業員のベン・ファレルが、同社の企業文化に関する悲痛なブログを投稿した。ファレルによると、彼の妊娠中の妻が階段から落ちて入院したため、彼は出張に行けなくなった。するとアップルはこの出来事を「パフォーマンスの低下」として記録したという。

「私はあらゆる時間に攻撃的なチャットを送られ、15分ごとに嫌がらせのようなメールを受け取った。『オンラインか? 表示が離席中になっているぞ。そこにいるのか?』という具合だった」。

グーグルでさえもだ。同社は犬を連れて出社でき、無料で食事が提供されるような会社だが、「グラスドア」(社員が職場に関するさまざまな情報を提供するサイト)を見ると、同社ではワーク・ライフ・バランスを維持しにくいことが、何十件ものレビューからわかる。

ある人は「グーグルで出世するには、本当に必死で働く必要がある」と書く。「グーグルは大企業のひとつに変貌しつつあり、中小企業特有の親密さや柔軟性は失われてしまった」という。

CEOらはもちろん反論

テクノロジー企業の創業者たちは、このような話をなかなか信じることができない。マスクはバンスが書いた自伝の内容に、怒りのツイートで応じた。「会社での集まりのためだけに、子どもの誕生の瞬間を見逃せと僕が言ったなんて、まったくのデタラメだし、中傷だ。僕は決してそんなことは言わない」。

アマゾンのCEO、ジェフ・ベゾスも、ニューヨーク・タイムズの記事に明らかに傷ついたようだ。従業員に文書を送って、記事に書かれたような思いやりのない行為に直面したら、「人事部に上げる」か、ベゾスに直接知らせるよう社員を促した。

ベゾスはこうも記した。「ニューヨーク・タイムズで描かれたような企業で本当に働いている人がいるなら、そこにとどまるのはどうかしていると思う。私だったらそんな会社は辞めるに決まっている」。

マスクが例のメールを送った記憶がないこと、またベゾスが考えている自社の姿は、ニューヨーク・タイムズの記者たちが元社員や現職の社員の話を聞いて描いた姿とは異なっていること、これらについては信じるとしよう。

しかし、問題は確かに存在する。アマゾンとテスラについてのグラスドアのレビューを読めば、両社の労働環境が非常に競争の激しいものであること、また長時間の労働が求められることがみとれる。

問題は、不満を述べている人の多くが技術者ではなく、営業やマーケティングや財務など、従来型の本社機能で働く人々であることかもしれない。

テクノロジー企業では、そうした人々は代替のきく低い階級に位置する。この業界は、昔からの企業と比べて、オフィスワーカーを必ずしもうまく扱えない。なぜなら、そうした人たちを軽蔑する文化の中で成長してきたからだ。

ソフトウェア開発者はそれほど不満を持っていないかもしれない。というのも、彼らは技術的な挑戦が好きで、自分の能力に磨きをかけてくれる人と常に接触し、それにより成長できるからだ。

問題の根幹にあるのは何か

だが、それだけが理由ではないだろう。テクノロジー業界のリーダーたちも、強力な本社機能がなければ現在の位置まで到達できなかったはずだ。実際に彼らは、非技術職にもクリエイティブな人たちを採用するよう大変な努力をしている。また、マーケターや財務担当者も、優秀な同僚と協力して仕事をすることが好きだ。

もっと可能性が高いのは、テクノロジー業界の代表的企業が、金融業界に代わって大金獲得の最前線に出たということだ。アマゾンの幹部として成功し、株式を付与されれば金持ちになれる。あるいは、テスラの社員として成功し、ストック・オプションを持てば金持ちになれる。

こうして社員を金持ちにするために、これらの企業は利益を出す必要すらない。しかも、今日のウォール街とは異なり、テクノロジー業界は規制当局から厳しい監視の目を向けられることはない。また、以前は一般的な慣行であったのに突然に倫理的問題とされるようになったことを行って、顔に泥を塗る危険もない。

おカネが生み出されている匂いには、ある企業文化が付随する。男子更衣室の雰囲気だ。それはマイケル・ルイスがウォール街の様子を書いた『ライアーズ・ポーカー』で描かれているものによく似ている。

つまり、世界に君臨するという感覚(テクノロジー企業では「世界を変える」と表現されるが、意味は同じだ)、バリバリ働きバリバリ遊ぶという精神、そして遅れを取った人へのある種の思いやりのなさである。

テクノロジー業界の企業価値評価がどの業界よりも高い限り、おそらくこれは避けられない。仮に、思いやりがあり自由を愛し、技術に詳しいミレニアル世代の誰かが会社を変革してくれることを願ったとしよう。しかし、すでにおカネが支配する反革命がおよんでおり、そうした変革者をも幻滅させている。(文中敬称略)

*本コラムは、ブルームバーグLPオーナーや編集委員会の意見を必ずしも反映したものではありません。

(執筆:コラムニスト Leonid Bershidsky、翻訳:東方雅美、写真:Bloomberg)
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